オレだって赤か青かの選択肢なら一発ヒーローになれる可能性が。
「あの、それって事件ってことは爆発したんですか、爆弾?」
たまたま居合わせた宇野さんが未然に解決したとしても事件は事件か、とも思うのだけど。
爆弾処理をドラマや映画みたいに宇野さんが出来たのなら、それを防がれた犯人が逆恨みの矛先を宇野さんに向けてるという話になりそうだが。
それにしては犯人の動機云々がわかってたりですっかり捕まってるようにも思えるのだけど。
「ええ、爆発しました。被害者は先程挙げた宇野を除いた四名」
「宇野さんは巻き込まれなかった?」
「ええ。実は宇野は爆弾を一旦止めることに成功したそうです。爆弾処理は専門の処理班に任せるのが絶対なのですが、宇野は警察としての正義感、というよりヒーロー願望から自分で爆弾を止めるという無謀に出たそうです」
辛辣な言葉に聞こえるそれは、宇野の行動が決して褒められたものではないということなのだろう。
当時の状況がどういったものなのかはわからないが、被害者の四人を現場から優先して逃がさなかったことからもわかる。
「一旦、ということはその後に爆発したんですか?」
「ええ。フィクション作品に出てくるレトロタイプな時限爆弾のデジタル時計が止まったのを見て宇野は、未然に防げたと安心しきったようで応援を呼ぶ為に爆弾をそのままにして現場を離れ電話しに外へ出たのだそうです。しかしながら、犯人は爆弾にリモート起爆出来る仕組みを用意していていて──」
アリバイ作りの為の時限装置。
時限装置が失敗した時用のリモート起爆。
「宇野の対処は『褒められたものでは無い』では済まなくなりました。爆弾により死者が出て、その要因の一つとして警察官の失敗が加わってしまった。爆弾魔についてはその後の捜査で逮捕することは出来たのですが、情報規制をかけて最低限度の報道へ押さえ込んだり、宇野自体のクビも切れずに飼い殺しのような異動が行われたり」
聞いちゃいけないような話を聞かされてる気がしてきた。
俺の目の前に座る警官が、ただただ口が軽い人物であることを願う。
謎を全部語る登場人物って、黒幕みたいでめちゃくちゃ怖い。
「あの、もしかして、宇野さんのことよく思ってない人ですか?」
「え? あ、ああ、申し訳ない、ベラベラと喋ったせいで余計な勘繰りさせてしまいましたね。そういうつもりじゃなかったんです、ただ巻き込まれた貴方がたは知っておいてもいいんじゃないかと。ほら、誰かに恨まれてるんじゃないかと疑い続けて日々過ごすのは嫌じゃないですか」
警官は和ませようと笑顔を作ってそう答えるが、逆にそれも怖かったり。
巻き込まれた上に事情まで知ってしまったからには、これ第二のゲームにも強制参加パターンとかじゃないだろうな。
「ところで、その宇野さんは今どこに?」
「今回の件を受けて他人を巻き込まないように宇野は姿を隠すことにしたみたいです。犯人の心当たりはあるらしく、数人の警察官を応援に逮捕へ向かう段階へと事は進んでるとのことで。なので、安心して頂ければと思います。事件はすぐ解決しますので」
長々と話を聞いた結果、最後の言葉が言いたかったということらしくそれが事情聴取の〆の挨拶となった。
聴取が終わって警察署の外に出た。
あの部屋では月明かりを気にしていたはずなのに、すっかり朝日が眩しい時間になっていた。
知らない部屋から解放された今、知らない警察署前で立っている。
どうやって運ばれたのかも見当つかないが、県外にまで連れてこられていたらしい。
拉致監禁された際に持っていかれた財布やら携帯電話やらは未だに見つかっていないらしく、警察はタクシー代までは出してくれないので帰る手段として兄に電話して事情を話して迎えに来てもらうことにした。
やることも無いので伸びなどをしながら兄を待っていると、遅れて聴取の終わった一之瀬さんが警察署から出てくるところに出くわした。
「阿久津さん・・・・・・今回のこと、事情とか聞かされました?」
「一之瀬さんもあの話聞いたんですか?」
何とも言いようの無い事情について、共有してる事に嬉しさは特に無かった。
モヤッとした気持ちをお互い持ってしまったよな、という確認の為の頷き。
「・・・・・・犯人、捕まるといいですね」
「・・・・・・そうですね」
例えば、吊り橋効果というものがある。
命が危険に晒された状態を協力して乗り切ったらどうたらこうたらとなる、例のアレだ。
とはいえ俺と一之瀬さんは二人で頑張って乗り越えたぞ!、という感じは微塵もなく、気づいたら巻き込まれていて気づいたら勝手に解決していた、という嵐に遭遇しただけの二人だ。
恋愛ごとに発展するような気配は全くと言ってないので、ただただどう言葉をかけたらいいのかと気まずいだけであった。
「あの、阿久津さん?」
「え、どうしましたか?」
社交性の無さが露呈してるだけの気まずさを気取られたのかと思ったが、そうでは無いようだ。
「宇野さんが三分以内にあの部屋を出ていった、何故それがあの時の答えだったんだろうって気になりませんか?」
「はい?」
そう疑問を投げかけられたら確かに不思議ではある。
言ってみれば、全員を見捨てて一人だけ逃げるのが正解、というイジワルな答えだ。
イジワルな答えで、宇野さんが自分が狙いだと理解した後すぐに思い至った答え。
「あの爆弾魔の事件、時限装置は単なる脅しのつもりだったらしいんです。ほら、爆破予告する迷惑犯みたいな。解雇された腹いせとして恐怖させることが目的なだけで、爆破する気は無かった」
「へー、俺の担当してた以上にお喋りな警官だったんですね、一之瀬さんが話してた相手」
爆弾魔の事情の詳細まで話す必要はないだろう。
一之瀬さんが何かいいリアクションでもして、ヒートアップした結果口が滑り倒したのだろうか?
「それを宇野さんが奇跡的なヒーロー行為で三分と表示された時限爆弾を止めることになった──なってしまった。爆弾魔にとっては不当な解雇、それに対しての腹いせすら上手くいかない。だから、爆発したんです、あの日、あの爆弾は。宇野さんが三分以内に解除しなければ、爆発しなかったはずなのに」
「あの、一之瀬さん、どういう風に話し聞いたんです?」
俺の質問に、一之瀬さんは答えることなく微笑んでるとも悲しんでるともいえない表情を見せる。
「あの日、あの派遣会社で事務員をやっていたの、離婚して家を出ていった母親なんです」
「ちょっ、ちょっと一之瀬さん、それは──」
俺は一之瀬さんが何を明かそうとしてるのか理解して、何故だか止めようとしていた。
受け止めきれない、そう一瞬にして判断したのかもしれない。
ポツン、と頬に水滴が当たる。
頭がパニックになり涙が零れた、というわけではない。
雨が降ってきたのだ。
小雨がポツンと降ってきていて、それが風に流され頬に当たったのだ。
「あ、そういえばコレ。さっき警察の方にビニール傘渡されたんでした。使います、阿久津さん?」
なんで俺は渡されてないんだ、と確かに思ったけれどいざ使うかと言われると受け取りにくい。
「いや、ほら、それは一之瀬さんが渡されたんだし、一之瀬さんが使いなよ」
「いえいえ、実は私、ほら──」
一之瀬さんはそう言うとキャミワンピースの何処かしらから、白いレインコートを取り出してバサッと広げた。
「こんなモノ持ってまして、大丈夫なんです。だから、ほら、お詫びの意味を込めまして、ぜひどうぞ」
一之瀬さんはそう言って半ば強引に俺にビニール傘を持たせると、レインコートを羽織って小雨の中を歩いていった。
何のお詫びなのかとか、その白いレインコートは何かとか、そういう疑問を彼女の後ろ姿にかけることなく俺はいつも通りの言葉を漏らしていた。
「は?」
情けないその声は、少しづつ強まっていく雨音にかき消されていった。
え、この場合『○○』を埋めるのが正解なんですか? 違いますよね? どうなんですかね? 清泪(せいな) @seina35
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