事件の発想ってエンタメ作品から得てるんじゃないかって思う
宇野が部屋から出ていった。
俺を含め、ただ呆然とする四人。
部屋にはカチカチと秒針を刻む音が聞こえ、それも何回もしないうちに止まった。
失敗だったのか成功だったのか、死ぬのか死なないのか、わからないまま誰も言葉を発せずに時間が過ぎていく。
死ぬのだとしたら、どういう風に殺されるんだろうか?
死ぬのだとしたら、俺は最後になんという言葉を残すべきなのだろうか?
は?、が最後になるのは正直嫌だ。
死にたくないと喚くのも、死を直面にしてる実感が無いので心がこもりそうにない。
一之瀬さんを安心させるような言葉をかけてあげたい気持ちが僅かばかりにあるが、実感もなければ良い言葉も思いつかないので薄っぺらさだけ露呈しそうで嫌だった。
沈黙が続くが誰かに何かを喋らせるのも酷な話だとも思う。
最後の言葉のカツアゲというか、慰めのカツアゲというか。
問われたら嫌だしな、俺も。
沈黙が続き、静寂になって、時間の感覚が薄れていって。
長くもあり、短くもあり。
そんな”間”を感じていた時に、こちらに向かってくる慌ただしい足音が複数聞こえたのだった。
数時間後。
俺たちは駆けつけた警察に保護された後、落ち着くまでの少しの休憩時間を挟み、今回の事件の事情を個々に聴取された。
こういうのは何故だか取調室で話すことになるのかと思い込んでいたが、普通に会議で使ってそうな部屋に通されての話し合いだった。
こちらから話せることなんてほとんど無かった。
仕事が終わり一人暮らしの我が家に辿り着き、冷蔵庫を開けると晩飯になりそうなものが全く無いことに気づいて買い出しに出かけたところから、あの部屋で目覚めるまでの記憶は飛んでいた。
なので誰に拉致監禁されたかなんてわかりもしないし、無事出られた今も犯人から答え合わせをしてくれるわけでもなかった。
「あの、宇野さんってもしかして警察関係者ですか?」
説明出来ることが少ないのでこちらとしては早々に切り上げてもらいたがったが、情報不足に不満気な警官さんはなかなか解放してくれそうに無かった。
そうなってくると意味深に言葉を濁して何かを隠してる素振りだと誤解されるわけにもいかず、話題提供として質問を振ることになる。
「彼がそう名乗りましたか?」
「いえ。でも、捕まえる側だって、言いかけてたから」
「うーん、そうですね。貴方がたは巻き込まれた形になってしまったので、説明するのが筋というものでしょうか」
「巻き込まれた、って確か宇野さんもそう言ってました」
会議用の長机を二台挟んで向かいに座る警官は手元の用紙に何かしらを書き込むと、ペンを置いて一息吐いた。
「現場に駆けつけたのは宇野からの通報でした。その際、今回の事件について思い当たることを報告していたようです」
「思い当たること?」
「宇野が三分以内にやらなければならないことがあった。それがルール、だったらしいですね」
「はい・・・・・・あ、いや、多分そうだろうって感じですけどね。答え合わせされてませんし」
「いえ、それが答えなのでしょう。今回の件は以前起きた事件のことを連想させることが目的なのだと思われます」
プラカードのメッセージから人名、名札と連想していくように、過去の事件に繋がるのだという。
「宇野は以前、爆弾魔の事件に遭遇してるんです」
「爆弾魔?」
デスゲーム、とあの時簡単に思いついたのに、爆弾魔なんて言われてそんないるわけないだろと思ってしまった。
ネットで調べたら誰でも作れる、なんて言葉を聞く割に何故か現実味が無かった。
「当時非番だった宇野はたまたま爆弾が設置された現場に遭遇してしまいました。爆発の範囲はビルの一室を吹っ飛ばす程度、動機は不当な解雇への仕返しでした」
現代においてビルの一室吹っ飛ばす程度の爆弾事件なんてテレビやらネットやらで連日報道されそうだけど、聞いた覚えがなかった。
「そのビルの一室とはある派遣会社の支部でした。当時現場にいたのは宇野を入れて五名。支部長の老齢の男性と事務員の若い女性、派遣社員として勤めていた男性とその日登録にと初めて訪れた青年と、その青年に道を聞かれて案内した宇野です」
嫌な一致だとすぐに分かった。
支部長役が大道寺さん、事務員役が一之瀬さん、登録しに訪れた青年が江田島で、派遣社員だという男性が俺の役回り。
宇野さん以外の数合わせ。
「爆弾を仕掛けた犯人の解雇を行ったのは派遣会社自体ではなく、その派遣先。犯人の男の勤務態度がそもそも悪く何度目かの勧告の後の解雇だったようです。派遣会社側はその事情を説明した後、男の反省を促してから次の職場への派遣も検討していたようです」
けれど、爆弾魔は派遣会社に対して爆破を計画したわけか。
爆弾”魔”なんて言われ方をするだけあって、連続性もあったんだろう。
本命を爆破する為に何件か練習してた形跡を掴まれたか。
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