第11話 彼らの箱庭

『アルビの箱庭には立派な白柘榴の生る木がある。その木は九十年に一度、豊満な実を実らせ、十年を掛けてその実を熟していく。熟した白柘榴には延命の力が宿るとされ、その実はいつの時代も、国である「鵙」に捧げられると云う……——』



 そんな伝説が語られる白柘榴の木の下で、一人の少年が本を読んでいた。大きな蔵書だ。おおよそ子供が読むような内容でもないというのに、少年は熱心にその本を読んでいた。彼は幼いながらに感じていたのだ。この蔵書の語る歴史を、自分は知らなければならないと。


「…………へえ! 随分と難しい本を読んでいるんだね! 一体どんな内容なのだろう」


 突然、次のページを捲ろうとした時、背後から声をかけられた少年は思わず驚いて目を見開き振り返った。そこにいたのは随分な優男だった。


「…………これはこの国の、『鵙の国』に関する歴史が書かれている本だよ。ていうかあんた誰?」

「僕? 僕かい? 僕は、そうだな。……君はなんだと思う?」


 質問を質問で返された少年は少しだけ頬を膨らませてむくれたが、すぐに目の前の彼について考えた。


「え? 何って……。あんたは、大人だろ?」

「大人! 大人かあ。確かに、その通りだよね。僕は、

「アルビ……?」


 それはどこかで聞いたことのある名前。どこでだったかは思い出せない。けれど少年の心には微かにその名前の記憶が存在した。靄が掛かって、思い出すのは難しいが。


「そう。君の名前は?」


 少年は恥ずかしがっていたが、少ししてアルビに向き直った。その目は〝あの時の彼〟のようで、アルビは思わず困り眉をして笑った。


「俺は——。白柘榴の、アルビノだ」

「……うん。そっか。そうだったね。……これからよろしくね、アルビノ」





 かくして『彼ら』の時が進み始める。

 これは二人の物語。

 繰り返される「出会い」の物語。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モズの国 KaoLi @t58vxwqk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ