第48話「異世界の日常」

 ――イツキと再開を果たした数日後の天界。


「メルちゃんほどの優秀な子が一体どんな理由で『天界の規律』を破ったのかと思えば……『男』だったなんてねぇ~」

「だっ、大女神様……⁉」


 女神であるメルの目の前に、全ての女神の頂点に立つ、『大女神』が現れた。


「元々、私の『右腕』だった貴女が突然、『とある人を救いたいから、地球へ行ってきます』なんて言われた時はビックリしちゃったんだから!」

「す、すみません。死帳に書いてあった、彼が飛び降り自殺ってのを阻止したくて……」

「死帳に書かれた死方は絶対よ……。それを貴女は変えたの」


 メルは頭を下げる。


「罰は罰よ、特別扱いはできないわ。それでも、貴女はまた私の元へ戻って来るわよね?」

「はい……! 絶対に!」


 顔を上げたメルの頭を大女神はポンポンと優しく触った。


「とりあえず、昇格させておくわ~! いいもの見れたしね♡」

「へ……?」

「私、他人の恋とか大好きなの……! キュンキュンしちゃうわー! 私もちょっと、彼のことを覗かせてもらおうかしら」


 大女神は、メルの持っていた異世界の様子を覗ける水晶玉を取り、覗こうとしたが、メルに取り返される。


「ちょっ、それは……ダメです」

「あら、嫉妬?」

「違います‼」

「ふふっ、じゃあまた遊びに来るわ~」

「仕事してください。全く、気分屋なんですから……」


 そういいつつも、ついイツキの様子を覗いてしまうメルであった。


「友達と楽しそうにしてる……。ふふっ」


 今日も今日とて平和な天界の様で。


       ◆◇◆◇


「だから俺、そんな凄くないんだって!」

「いや、聞くところによれば、魔王軍幹部だって話じゃないか。あの日、怪しいと思って職質をした人がこんな凄い奴だったなんて驚きだよ……!」

「あぁ、本当だな! ここはエンターテイナーとして、一つ芸を披露しよう……!」

「求めてないから」


 シルヴァとの戦いから数日後。

 何故か、冒険者ギルドのカウンタースペースでクリストとアテスに挟まれながら飯を食べている。いや、まだマシか……。

 数日前から、『祝・イツキパーティ、魔王軍幹部討伐!』って書かれた紙がそこら中に広がってて、ビビるとかいうレベルじゃなかった。


 あの日は、冒険者ギルドへ戻り、受付嬢さんにクエストとトレントの件を話した。本来のクエストであった『紅理の実』は、実はイヴがこっそりと回収していたみたいで、クエストもしっかりとクリアした。


 そして、冒険者カードには、倒したモンスターが見れるシステムが搭載されており、魔王軍の魔物には謎の印がつくらしい。その印が赤色なら魔王軍幹部以上の実力で、俺の冒険者カードにもその印がついていたため、この騒ぎ。

 ちなみに、数日前からずっと騒いで飲んだくれている。いい加減クエスト受けてこいよ、おっさん共……。


 昨日は主役とか言ってめちゃくちゃ食わされたが、今日はただ飲みたいだけの実質ニートの集まり。その隅で、アテスとクリストにサンドイッチされていた。

 そんな時、可愛らしい女の子の声が聞こえた。


「皆さん、仲良しですね」


 珍しく、ギルドにエマが居た。


「よぉ、なんか久しぶりだな」

「二十四話ぶりかな」

「何の話だろう。しかし、ギルドへ何をしに来たんだ……?」

「たまにギルドへ来て、素材の提供をするの」

「なるほど……」


 男そっちのけでエマとお話をする。あ、でも、しっかりクリストが奢ってくれるみたいだ。本当は大量に報酬を貰った俺が奢るべきなんだろうけどさ。

 そんな感じで、仲間達も自由にやっている……いや、自由にやりすぎだ。


「イヴ、あんま走り回んなよー」

「はーい!」


 全く、アイツはまだまだ子供だな……。すると、フィリスが一枚の紙を持ってこちらへ歩いてきた。


「イツキ! 新たなクエストだ、準備を整えたら出発するぞ!」

「だから、リーダーの俺に相談しろって……。てか、まだ傷口が痛むんだけど」

「そんなこと言ってると、腕が劣ってしまうぞ!」


 強敵と戦っても、フィリスは元気だな……。


「ところで、リノエ? 緊急時以外に影に潜むのやめてくれない?」

「最強の移動手段じゃない、やめないわ」

「光を浴びせてやろうか?」

「汚いわね……」


 相変わらず生意気なリノエ、どうやら光に弱いらしい。


「どれどれ……スライム討伐ね。さっさと終わらせようか」


 俺はフィリスの持ってきた依頼書を軽く読んだ後、席を立ってクリストと出番の少ないアテス、そしてエマに手を振った。


「イヴ、クエストに行くぞ!」

「フィリス、元気だね……」

「貴方が言うの? イヴ」

「はぁ…………」


 こんな仲間達との冒険も、一周まわって穏やかと呼べるのかな。

 俺は大切な友人を失い、異世界へ連れて来られ、めんどくさい仲間ができた。しかし、そんな人生も悪くは無いと思えてきた今日この頃である。

 新たな友達、数々の強敵との戦い、そして心の底から笑い合える仲間。色々と大変だが、とあるひとつの事さえ覚えておけば、辛いという事は絶対に無い。


 そうだな……この世界で生き抜くための知恵を授けるならば、俺はこう伝えるだろう――



 ――この世界では、笑わなきゃ損。ってね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第二の人生は笑顔で過ごしたい!~幸せな生活を手に入れるため、実力(ずるいやり方)で魔王軍を壊滅させる。おふざけ時々マジメ~《セカンドライフはスマイルですごしたい》 秋麗 もみじ @momijimomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ