神様の贈り物

よし ひろし

神様の贈り物

 わたしには三分以内にやらなければならないことがあった。


 彼の時間が止まっている三分間、その間に調べたいことがある。


 人の動きを三分間止める薬――神様がわたしにくれた贈り物。

 飲み物に一滴たらし、相手がそれを飲み干した瞬間からカウントダウンが始まる。

 効果は知り合いで確認済み。

 いま、彼の時は止まっている。


 スマホ――

 どこ?

 あった。


 顔認証――

 いけた。

 ロック解除。


 中を確認……

 ……

 わたしとのやりとりだけ。

 後は仕事関係と男友達。


 写真は――

 怪しいものはない。


 よかった、浮気、してない……


 いや、待って――この前の時、もう一つのスマホが……


 どこ、どこかに――あそこだ!

 普段持ち歩くバッグ。

 中に――小物入れ。ここに――あった!

 やっぱり、もう一台隠していた。


 これも、顔認証で――よし!


 ――――!?


 なに、これ!


 誰よ、この女!

 待って、見たことある――彼のマンションで確か…

 仕事の資料を届けに来たとかで一度――

 後輩の――ダメだ、名前、思い出せない。

 名前なんてどうでもいいわ。


 この写真――USJ!

 この前の大阪、仕事じゃなかったの!


 何、なに、どういうこと。


 LINEを――


 お前が本命?

 何、それ。

 

 わたしは――金づる!

 あんな貧相な体の女――

 怒りっぽくて、癇癪持ち――

 お前の方が百万倍いい――


 なによ、これ、嘘、うそ…


 はぁ、はぁ、はぁ……


 動画もある。


 ――――!?


 見るに堪えない映像。

 ハメ撮り……


 ショックのあまり、全身から力が抜けた。

 スマホが手から滑り落ち、床に落ちる。


 あん、ああん、あん、好き、好きよ、もっとして――


 映像の音声が部屋に響く。


「――うるさい!」


 ズガシっ!


 スマホを思いっきり踏みつける。画面が割れ、映像が止まる。


「はぁ、はぁ、はぁ……、許さない――」


 わたしはキッチンへと向かった。


 その時、三分が過ぎた。


「あれ――? どこ行ったんだ?」

 目前にいたわたしが突然消えたことに驚く彼の声。


 その背後にそっと近づく。そして――


「ねえ、わたし、貧相な体かな?」


「え、何?」


 椅子に座ったまま振り返る彼。


 その首筋に、両手で持った包丁を思いっきり突き刺した。


「がぁっ!」


 極限まで見開かた目が、わたしを見つめる。


「ごめんね、わたし、癇癪持ちだから――」


 刺した包丁の柄に更に体重をかける。


 ズグリっ! ドク、ドクドク…


「――……」


「さようなら、永遠に――」


 見つめる瞳から生命の光が消えるのを確認し、わたしは包丁から手を放す。

 そして、ポケットから小瓶を取り出す。


 神様からの贈り物――


「もう一回分、あるかしら? あなたの本命とやらも送ってあげるわ、同じところに――」



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神様の贈り物 よし ひろし @dai_dai_kichi

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