日向の猫

あげあげぱん

第1話

 ある日、家の猫が死んだ。


 ふわふわの茶色い毛で、瞳の色は青と黄。オッドアイだった。私は彼のことを誰よりも愛していて、彼の居ない世界には耐えられそうにない。私は弱い人間だった。


 だから彼のあとを追って死のうと思った。


 でも、どのように死ねばよいだろう?


 自殺することを決意したが、死んで何カ月も経ち腐り果てた状態で発見されるのは嫌だと思った。かといって、家の外で人に迷惑をかけるような死に方もしたくはなかった。


 そこで、私は家の軒先からよく見える日当たりの良い部屋で首を吊ることにした。この部屋で首を吊っていれば外から見た人が異常を察してくれるだろう。その人からすれば嫌なものを見せてしまうことになるが、今の私にはその死に方が最善に思える。


 天井からロープを吊り、椅子の上に立つ。ロープの先は輪っかになり、いつでも私の首をかけることができる。


 私は目の前の輪っかに首をかけ、足元の椅子を倒そうとした。その時。


 背後から、にゃあ。と声がした。私は首にかけていた輪っかを外し、辺りを見回す。


 どこかから猫が入り込んだのだろうか。そう考えていた時、私はその猫を見つけた。


 日の光がよく当たる軒先に、ふわふわの茶色い毛をした猫が居た。瞳の色は青と黄。紛れもなく、私が良く知る彼だった。


 私は椅子から降り、見えているものが幻だったとしても、その存在に近づく。軒先に立った私を、隣の彼は見上げていた。その時、なぜだか彼が笑ったように見えた。自殺することを踏みとどまった私に、嬉しさを感じてくれたかのように。


 どんな形であれ、もう一度だけでも彼の姿を見ることが出来て嬉しかった。


 私は屈みこみ、彼のふわふわの頬に触れようとした。彼も顔を近づけて、私に触れようとした。でも、私と彼が触れ合うことはなかった。その存在は煙のように、私の視界から消えてしまった。


 その時、再び私の耳に、にゃあという鳴き声が届いた。声のした方を振り向くと、そこには何も居なかったが、何か小さな生き物の気配を感じることができた。その気配はのんびりとした動きを感じさせ、軒先から家のどこかへ行ってしまった。


 私は部屋の天井から吊り下げられたロープを見た。その時の私はもう、死のうという気持ちではなくなっていた。


 それからしばらくが立った。私はまだ、この世に踏みとどまっている。


 あの日の後、彼が私の前に姿を見せることはなかった。彼の鳴き声が私の耳に届くこともない。


 でも。


 今でも時々、軒先の日向の中に、何か小さな存在を感じることがある。

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日向の猫 あげあげぱん @ageage2023

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