第2話 王立図書館
俺とカステルは王都へと向かった。
相変わらずの大都会。人が多くて活気がある。みんなせわしなく歩いていて、ウチの辺境の村とは大違いである。ただ、王都の空は煙で曇っていてウチの村の方が空はキレイである。
「カストル。王都の図書館ってどこにあるんだ?」
「王都で最もでかい図書館はセントラル地区にある王立図書館だ。そこに行けば魔族の情報も載っているかもしれない」
「なるほど。王都に図書館って1つじゃないんだな」
「ウチの村には図書館なんて1個もないけどな。ははは」
カストルの自虐ギャグを聞いていると悲しくなる。
「ただ、セントラルはもっと人が多いぞ。大丈夫か? アイン」
「げっ、ここより人が多いのか」
実際、カストルの言う通りであった。俺たちが立っている場所は王都の端も端。入口に過ぎなかった。
セントラルに向かうと更にキレイでオシャレな街並みになっている。
「すげえな。建物が豪華すぎる。まるで城みたいだ」
「アイン。そんな田舎者丸出しの発言はやめたまえ。確かにここは富裕層しか住めない町だからその分建物も豪華だ。だが、本当の城を見たらたまげるぞ」
カストルがニヤつきながら言ってくる。そう言われると城の外観を見るのが楽しみになってくる。
「まあ、今は王都を観光している場合じゃない。早いところ、図書館に行こう」
カストルに連れられて俺は図書館へと向かった。
カストルは村の出身ではない。外からやってきた人間である。カストルは世界中の色んな所を旅してきたと言っていた。
そんな人間が、どうして俺が生まれ育った村に来たのかはわからない。でも、カストルの話は世界中を旅してきただけあって面白い。
カストルの話を聞いている内に、俺とカストルは仲良くなったのだ。
図書館に入ると、そこはまるで別世界のような空間が広がっていた。
びっしりと並んだ本棚と本。この本を全て読み終わるだけでも一生がいくつあっても足りないと感じるくらいだ。
本とは無縁の生活を送っていた俺にとっては実に頭が痛くなるような光景である。
「うへぇ……この中から魔族に関する書物を探すのか?」
「探すのはそんなに苦労しない。図書館というのは大抵本棚ごとに分類がわけられている」
「分類?」
「本の種類だ。例えば、動物に関する本だとか、植物に関する本、星に関する本とか、そういうのがまとまっていた方が利用しやすいだろ?」
「確かに」
俺はある本棚の前に立った。ここにある本は何となく俺でも読めそうだと思った。
「アイン。何を見ている。そこは児童書のコーナーだ。大人の俺たちが読むようなものじゃない」
「別に良いだろ。大人が児童書を読んだって」
「それは構わないが、今は別の目的があるんだろ?」
「そうだった」
サラを殺した犯人を見つけるため。その手がかりを探すために、俺は魔族について知る必要があった。
「まずはそうだな。歴史書のコーナーから見ていこうか。魔族の歴史は人間との争いの歴史だ」
「ああ、わかった」
俺はカストルについていき、歴史書のコーナーに向かった。カストルが本棚を見て何かを探している。
「…………やられた」
「やられた?」
「ああ。俺がアインに読まそうと思っていた本が貸し出し中になっている」
「貸し出し?」
「本に縁がないアインは知らないと思うが、図書館は本を借りることができる。誰かがこの本を借りたんだ」
「それじゃあ、俺はその本が読めないってことか?」
「いや。そうじゃない。貸し出しには期間というものがある。所定の日にまで本を返さなくてはならない。だから、いつかは本は戻ってくる」
「なるほど……それじゃあ、俺たちは本が帰ってくるまで待てばいいんだな」
「まあ、歴史から学びたかったが仕方ない。俺は他に良さそうな本がないか探してくる。アインも適当に本を読んでいてくれ。学ぶいい機会だ」
「うへぇ」
学ぶ。あんまりいい響きじゃないな。でも、カステルを待つのも暇だ。俺は近くにあった自然科学のコーナーに出向いた。
そこにある植物図鑑を手に取る。別に植物に興味があったわけじゃない。ただ、カステルが薔薇アレルギ―という話を聞いて、少しだけ気になっただけである。
「バラ科の植物一覧か。ふむ……リンゴ、イチゴ、モモみたいな果実から、アーモンドみたいなナッツもバラ科に含まれるのか。なるほど」
別に俺がバラ科のアレルギーというわけではないが、注意しておいた方が良いかもしれない。それにしても、これだけのものが食べられないなんてカステルもかわいそうなやつだな。
「そして、サクラもやっぱりバラ科の植物だな。カステルは樹に触れただけで影響があるレベルなんだろうな。だとしたらかなりの重症な気もするけど。アレルギーは本人のせいじゃないしな」
知りたいことは十分にわかった。次は……民俗のコーナーに行ってみよう。これは……紋章のことが詳しく書かれている本か。
確か、カステルは言っていたな。ナイフの柄に描かれていた紋章。それは魔族の王族を示すものだと。
山羊は魔族の象徴。そして、コウモリは魔族にとっては高貴であることを示す。ナイフの柄に
その紋章がここに掲載されてないか見てみよう。
「それぞれの紋章の意味。ハルバートを持つ獅子の紋章。リネル国の紋章。リネルでは獅子は勇気の象徴。ハルバートは初代王が愛用していた武器である……なるほど」
各国の紋章の意味が掲載されている。これはこれで勉強になるけれど、俺が知りたいのはそれじゃない。
「コウモリの羽の紋章……あった! これだ」
紋章の意味。カストルが言っていることが正しいのか一応確かめておこう。
「コウモリ。それは時に自分を哺乳類と言い、時に自分を鳥類と言う。どちらの仲間にもいい顔をする。いわゆる嘘つきのレッテルを張られている。人間は嘘をつく生き物。だから、コウモリの羽は人間を表わしている」
なんだこれ。カステルが言っていることと全く違うではないか。コウモリは魔族にとって高貴な存在ではなかったのか?
そう思って、俺はもう1度本を読み返した。そうすると、合点がいった。
「これは神の項目だ。なるほど。神はコウモリを人間の象徴にしているのか」
同じ動物の紋章でも、立場によってそれぞれに込められている思いは違う。コウモリを高貴な存在とする者もいれば、人間だとする者もいるということか。
「もう少し、神の項目を見てみるか。羊の紋章。羊は神の使いである。神は自らが使う道具に羊の紋章を施している。よって、人間が羊を紋章に使うのは禁じられている」
神が羊の紋章か。山羊が魔族の信仰の紋章だから……なんか似ているな。これは偶然か? それともなにか意味があるのか? 一応、覚えておいた方が良さそうだ。
とは言え、いつまでも神の項目を見ているわけにはいかない。魔族の項目にページを移そう。
「コウモリ。魔族にとってコウモリは高貴な存在である。羽を広げて飛んでいるコウモリは貴族の証。そして、逆さ吊りになっているのが王族の証である」
なるほど。やっぱり、カステルが言っていた通りコウモリは高貴なる存在ってことか。でも、なんかここに書かれている内容。なにか引っ掛かるんだよな。
「山羊。それは魔族の信仰対象を表わす。山羊とコウモリが一緒に描かれている紋章は魔族の王族であることを示している。王族は自らの私物に紋章をあしらい、身分を見せつけている」
うん。やっぱりカステルの言っていることはあっている。やっぱり、犯人の手掛かりを追うに魔族の王族をあたるのが早そうだ。
――発見した手掛かり――
⑥バラ科の植物
リンゴ、イチゴ、モモ、アーモンド等が該当する。
⑦コウモリの紋章
神の間では人間を象徴する。魔族の間では高貴な存在とする。羽を広げて飛んでいるのが貴族の象徴。逆さ吊りになっているのが王族の象徴。
⑧羊の紋章
羊は神の使い。人間が羊の紋章を刻印することは許されない。
俺の婚約者を殺した奴の正体は親友だった。しかも、親友は母親違いの兄で俺たちの本当の父親は魔王という事実。婚約者は女神の生まれ変わりで魔王の血を受け継いだ俺を殺そうとしていたとか信じられるかよ 下垣 @vasita
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