地図に描かれた絵(ホラー)
この話はいまから20年ほど前のものである。
当時、大手匿名掲示板にハマっていた私は、その中にあるオカルトスレという場所に入り浸っていた。
オカルトスレというのは、その名の通り幽霊や不可思議な現象、怪談話などを語り合う場所である。
私はROM専という読むだけの人であり、書き込むことなどは、ほとんどなかった。
そんな私が一度だけスレッドに書き込みをしたことがあった。
それは『異世界に行ってきたんだけど、何か質問ある?』というスレッドだった。
そのスレッドでは、自称異世界帰りの人たちが、自分が居た異世界にはこんなものがあったということを書いていき、みんなで「あーでもない、こーでもない」と語り合うスレッドだった。
最初は面白いスレッドだなと、興味本位で覗いていただけだったのだが、見ているうちに自分も参加したくなってきてしまい、はじめて書き込みをしてみたのだ。
その書き込みは、大した事の無いものであり、今思ってもなんでこんなことを書いたのだろうと恥ずかしくなるようなものだった。
『それは、俺の居た異世界の地図とは違うな』
ただ、それだけのひと言。
それはスレ内にいた別の人が異世界の地図を見つけたと書いて、精巧に作られた地図の画像を貼ったことからはじまった遊びだった。
スレの住人たちは、まるで大喜利大会のように次々に面白いコメントを書いていく。それを見て、私は触発されて書いてみたのだ。
異世界の地図。実は学生の頃に趣味でノートに異世界の地図をたくさん書いていたことがあった。基本的にはファンタジー世界であり、北の大国や西の遊牧民といった世界観を地図に記していくという遊びだった。
『確かに、お前の知っている異世界の地図とは違うよな>>72』
私の書いたレスに誰かが答えてくれた。>>72というのは私がレスを書いた番号なのだ。
『おお、わかるのか>>90』
レスが書かれたということで調子に乗った私は、私にレスをくれた>>90にさらに返信をする。
『ああ、わかるさ。お前の居た異世界の地図には百合の紋章が入っているからな』
私はそのレスを見た時、キーボードの上に置いていた手を止めた。
百合の紋章?
何を言っているんだろうか。そう思ったが、気にしないことにした。
しかし、それから数時間後にあることに気がついたのだ。
百合の紋章。それは私がノートに異世界の地図を書いていた時に使っていたマークだった。
異世界の主であるリリーアントワネット女王の紋章。それが百合の紋章であり、リリーアントワネットが認めた異世界地図には、百合の紋章が描かれるという設定があったのだ。
そのことに気づいた時、私の手は震えた。自分ではどうにもできないくらいに震えていた。
怖くなり、すぐにパソコンの電源を落として、ルーターの電源も落とした。
なんで知っているんだ。
あのノートは、誰にも見せたことはなかったはずだ。
もう怖い思いはしたくない。そう思って、私はそのスレッドを見なくなり、そんな出来事があったことも忘れるくらいに年月が過ぎていった。
なぜ20年も経った今になってその出来事を思い出したのかといえば、実家が解体されることになったため、実家に帰り、自分の部屋の片づけをはじめたからだった。
私はずっとひとり暮らしをしており、実家には両親だけが住んでいた。
部屋の中を片づけていると、あのノートが出て来た。
異世界の地図を描いたノート。
懐かしく思いながらパラパラとめくる。
そして、例の百合の紋章も見つけた。
そう、これだよ。この紋章が描かれていない地図は偽物なのだ。
そんなことを思い出しながら、ノートのページをめくっていくと、途中で何か紙のようなものが挟まっていることに気づいた。
おもむろに、その紙を見てみる。
『おかえり』
紙にはその四文字が書かれており、その下には百合の紋章が描かれていた。
スミヲノオムニバス2 大隅 スミヲ @smee
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