第55話 天敵ですよぉぉ……

「あれはヤベェ!」

『ミヨさん!』

「ミヨねぇちゃん!」


 連絡路ブルーム側の出口で防備に入っていたギネスは、義足以外の装備を捨て、ミヨを助ける為に海へ走る。


「おい! ギネス!」

「最悪、俺たちの事は考えなくていい!」


 バリケードから飛び出すギネスは兵士の足を引っ張らない意味でもそう言い残した。


 『科学戦隊』はアンバーの開発する試作品の試験を兼ねて装備を渡されている。

 中でも『ダメージ計測』と呼ばれる装置は装備の耐久値を測るために『科学戦隊』内で共有した数値を表示し合っているのだ。

 今、ミヨが受けた攻撃は――巨木を裂く程の落雷と同数値の威力を計測している。


「アラド! ボート回せ! フワン! お前もミヨを引き上げるのを手伝え!」

『わかりました!』

「は、はい!」


 海に飛び込むギネスの指示に、金属の首輪チョーカーから音声を発する少年――アラドと、ヘルメットを被る少女――フワンは行動に移る。






『アルト、なんか来たから一人ぶっ飛ばしといたぜー』

「単独ですか。敵の主力の一人でしたか?」


 使い魔を展開している事による、魔女同士の念話にて二人は逐一報告をし合う。


『さぁね。アレが主力なら弱すぎ。ラシル様もなーんでこんなヤツらにやられたのかなぁ?』

「その“鉄の船”は驚異的です。しかし、所詮は寝首を掻かなければ私たちには遠く及ばないと言う事でしょう」

『なら、ちゃっちゃと進ませてよー。ウチは日が暮れるまで、ナイトの行進は見たくないよ』

「侮る理由はありません。それに、ラディア様が見ているのですよ? だらしなく寝そべるのは止めなさい」

『げっ、そうだった』


 ネールは起き上がってチラッ、と後方に座っているラディアを見る。すると、


『アルト、ネール』


 念話が飛んできて、ネールはビクッと反応する。


『私の目に応えようとしなくていい。いつもの調子で、いつも通りやれば良い』

「わかりました」

『ほんとっすか? じゃあ、一気に――』

『ただし、ネールは自分から攻めるな。まだ、“仮面を着けた奴”が出て来ていない』


 ラディアの懸念はマスカレードの戦士と彼らの頂点【魔拳神】ガイダルだった。


 “鉄の船”はネールで止められる。後退した賊はアルトで掃討出来るだろう。故に問題は個でそれなりの力を持つヤツらだ。


“戦いにはトリガーポイントってのがあるんだぜ? ソレを如何に効率的に叩けるか。それによって戦いの流れは大きく変わる”


 認めたくはないが、ハンニバルの助言でも役に立ったモノはある。

 ざわざわと地面が蠢く。ラディアは己の“使い魔”を通じて常に相手のトリガーポイントとなる情報を探り続けていた・・・・・・・






 海面にギネスが浮かび上がり、その傍らにはフワンと支えるように意識を失ったミヨも共に浮上していた。


『ギネスさん!』


 首輪から声を発するアラドは『Aエンジン』によりオール無しで動くボートにて近づく。


「ミヨを先に引き上げてくれ」


 何とか、三人でミヨをボートの上へ。フワンも上がり、ヘルメットを取る。その間にギネスも上がった。


「おねぇちゃん!」

「う……ゴホッ! ゴホッ!!」


 ミヨは飲んだ水を吐き出し始めた。アラドとフワンは彼女の身体を横に向けて吐き出させる。


「ゴホッ! ゴホッ……ありがと……二人とも……」

「三人だ。俺を忘れんな」


 笑うギネスはエンジンを操作して、連絡路から離れ始めた。


「ギネスもありがと」

「身体は動くか?」

「……完全にやられた」


 ミヨは過去に事故で脊椎を損傷し、『Aエンジン』を利用した補助ユニットで身体を動かしていた。

 試作品ではあるが、電流耐性は十分にある。しかしネールの一撃はソレを容易く上回るモノだった。

 補助ユニットが故障した今は首から下は全く動かせないのである。


「ダメージ計測の数値が許容を超えてたからな。再起動でどうにかなる問題じゃない。ユニットは博士に診てもらった方がいい」

「……あの魔女かなりヤバイ。戦艦が一撃で機能停止してた」


 故にミヨはネールを狙ったのだ。今後を考えても最優先で仕留めておくべき相手。しかし、結果はまるで相手にならなかった。


「しかも、序列は7位って言ってた」

「上にまだ6人は強い魔女がいんのか」

『遠目で見てました。ここで仕留めないと……例のハンニバルって人の指揮に入ったら……』

「雷はフワン達に天敵ですよぉぉ……」


 『科学戦隊』は全員が『Aエンジン』を利用した装備を着ける事で日常生活及び、戦闘を可能としている。

 ミヨの様に『Aエンジン』を停止をさせられてしまえば、一般人よりも無力になるのだ。


「まぁ……俺達が難しい事を考えてもしゃあねぇ。そう言うのは頭を使うヤツに任せて今は戦術的撤退だ」


 相性の悪い奴とは極力避けるに限る。何故なら、ソレらを退ける事が出来る者達が今のブルームには揃っているからだ。


 『帝国』の侵攻における『ミステリス』側の本格的な対抗。

 この一戦の持つ意味はとてつもなく大きい。


 と、“鋼鉄の騎士”が射程距離に入ったのか。ブルーム側から銃撃が始まった。

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魔導軍師ハンニバル 古朗伍 @furukawa

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