猫とこたつ。
夕藤さわな
第1話
熱々のコーヒー片手にこたつにもぐりこんで、ほっと一息。
「……あ」
冷蔵庫に大切な忘れ物をしてきてしまったことに気が付いた。
仕事帰りにコンビニで買った小さいくせにお高いバニラアイス。熱々のコーヒーに落として飲もうと思っていたのに。
立ち上がって取りに行かなくては。
そう思うのだけど、こたつから出られない。
「いや、でも……この瞬間のために買ってきたわけだし……」
なんて言っているうちにでっぷり太ったエリザベスさんがこたつにもぐりこんできた。長年連れ添った相棒、もとい愛猫だ。
私の足をぐにぐに踏み付けながらくるりとまわって方向転換。私の太ももを敷き布団代わりに丸くなるとこたつからひょっこり顔だけ出した。
「あー……」
「にゃー……」
こうなっては身動きできない。
もふもふぬくぬくなお猫様の重みをずしりと足に感じつつ。マグカップから立ち昇る湯気をクンクン。ちょっとお高目バニラアイスはまた明日とあっさりあきらめるとマグカップを両手で包んでコーヒーを一口。
いいにおいとあったかさにほーっと息をついてこたつにあごを乗せた。
なにせ今日は金曜。週末の夜。明日は仕事もお休み。一歩たりとも外に出る気はない。早起きをする気もミジンコほどもない。
ぬくぬく、こたつの誘惑に負けても。
ずっしりもふもふエリザベスさんの誘惑に負けても構わない。
「一向に構わないのだー」
「にゃー」
こたつにあごを乗せたままの私が伸びするのを察してエリザベスも前足をみょーんと伸ばす。寒くなったせいか、時の流れか。エリザベスほどではないけれどちょっぴり太ったお腹に肉球がめり込む。
「ダイエットしなきゃだねぇ、エリザベスさんやー」
「にゃー」
やる気のない声で言うとやる気のない声が返ってきてくすりと笑う。
ぬくぬくのこたつと、もふもふの重みと、コーヒーのいい香りと。
週末ばんざーいと思いながら私はまったり目を閉じた。
猫とこたつ。 夕藤さわな @sawana
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