第9話 春キャベツととうふだんご(完結)
からすとけんかしているなあさんが
ベランダに降ってきた。
回転して起き上がってなあさんは
……いつかも見たな、この画。
「おはよう、なあさん」
抱えたボウルに木べらを残してベランダの引き戸を開けると
からすが砂混じりの空気の中ばさばさと飛び立ちなあさんは
ふんす、と鼻を鳴らした。
背中にピンクの花びらが付いている。
回転するから。
「あのからすと仲悪いね」
「あいつがゆきおを狙うからだ」
なあさんは
ちらりと俺を見上げた。
「台所の残飯がうまそうだって言う」
俺んちの三角コーナーが狙われている。
木べらがかつんとボウルで跳ねる。
からすは向こうの電線で、くわくわと鳴いた。
『やーいねこ、ねこやーい』
ひどい煽りようだ。
なあさんと一緒に台所に戻って、ボウルから沸いた鍋にぽとりと
練ったとうふを落とす。
「鶏ももミンチ入りとうふだんご、だよ」
「とりにく」
なあさんは魚と一緒くらいとりにくが好きみたいで。
ひと煮立ちのあとみそを入れて
千切りした春キャベツをたっぷり。
急いで火を止める。
ご飯をよそったフードボウルを置いて
自分のお椀にもご飯を入れて
鍋敷きと鍋、箸とお玉
あったかくなってきたけど、まだそのままのこたつに運んで
「とりももミンチ入り、多めにください」
今日もなあさんのリクエストにお応えします。
……ねこ入居可のアパートに引っ越すことにしました。(雪緒)
おしまい。
ねこのまんま 霙座 @mizoreza
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