第1話 影の伴走者

 古書店『迷子書房』の奥深く、ほのかな灯りが宙太の作業台を照らしていた。周りは、時を超えて集められた埃っぽい本で囲まれ、その中で宙太は計画書に向き合っていた。彼の前に広がるのは、旧市街アルバの再建計画の草案――この街の未来を形作る一筋の希望。彼はその細い金縁の眼鏡を通じて紙面を凝視し、時折ペンを走らせる。宙太の役割はただの古書店の店主にあらず、彼はまた、この街の再建を進めるチームの橋渡し役として、その知識と情熱を注ぎ込んでいた。


 その静寂を優しく切り裂くように、ミヤビの声が響き渡った。


「宙太さん、私も街の復興のお手伝いをしたいです。」


 彼女の言葉は、まるで冬の朝に窓を通して室内に差し込む温かな陽光のように、宙太の心に明るい希望を灯した。彼はペンを置き、ゆっくりと振り返った。ミヤビの金色の瞳は、まるで古の伝説を語り継ぐ宝石が秘めた伝承を映し出すように輝き、その奥深い眼差しには、この街と人々への深い愛と、未来への確固たる決意が宿っていた。宙太は、彼女の提案に対する感謝を込めて、優しい微笑みを浮かべる。


「嬉しいことを言ってくれるね、ミヤビちゃん。気持ちだけ、ありがたくもらっておきます。」


 宙太は振り返り、金縁の眼鏡越しに彼女を見た。


「実をいうと、別件でミヤビちゃんに会ってもらいたい人がいるんだ。」


 彼の声には、ほのかな期待と微かな緊張が混じり合っていた。


「どうやら、君の持つ特殊な力に目を付けた人物がいてね。特別任務を君に頼みたいらしい。」


「私が?まるで物語の中の主人公みたい。」


 ミヤビは笑いながらも、興味津々の様子を見せた。


「物語の主人公とは違って、現実的な対価は発生するけどね。依頼主が、君に護衛を寄越してきた。彼女がそこまでするってことは、相当なことだろう。」


「私にボディガード?なんだか、重要人物になった気分だわ。」


 ミヤビは少し顔をひそめた。


 宙太は深緑のベストを正しながら、優しく微笑んだ。


「君は既にこの街にとって重要な人物だよ。ただ、今回の任務は特に危険が伴う。君に何かあっては組織としても困るからね。」


 店のドアがゆっくりと開き、威風堂々とした黒豹の亜人が現れた。彼の鍛え上げられた体はしなやかで力強く、ボディガードとしての威厳が空気を支配した。黒豹の亜人は依頼主からの厚い信頼を受け、ミヤビの安全を守る重要な役割を担っていた。その誇りが彼の態度からひしひしと感じられた。


「ミヤビさん、初めまして。トール・ハーマンです。アリアス様よりあなたの護衛を命じられました。」


 宙太は、トールをミヤビに紹介した。


「トールは特別な能力を持つシャドウウォーカーだよ。影を自在に操ることができるんだ。」


 ミヤビは驚きながらも興味津々でトールを見上げ、「影を操るなんて、どんな感じなの?本で読んだことはあるけど、実際にその能力を持つ人に会うのはこれが初めて!」と興奮を隠せなかった。


 トールは軽く微笑みながら、「機会があれば、ぜひお見せします。しかし、今はアリアス様との面会が優先です。」と落ち着いて答えた。


 宙太はミヤビの肩を軽く叩き、「大丈夫、トールがいれば、何も心配いらないよ。」と励ました。


 そして、ミヤビは緊張した様子でトールに近づき、彼女とトールは一緒に店を後にした。外へ一歩踏み出す瞬間、ミヤビの心は不安でいっぱいである一方で、新たな冒険への期待に胸が高鳴っていた。



 宙太は彼らを見送りながら、ミヤビが無事に任務を果たし、そして彼女がこの街に新たな光をもたらすことを心から願った。彼は再び本に囲まれた店内に残り、アルバの再建と平和のために、自分にできることに立ち返った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

光影のバリアード 悠稀よう子 @majo_neco_ren

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ