光影のバリアード

悠鬼よう子

プロローグ

 旧市街アルバの空には不穏な雲が立ち込め、空気は『鉄血連合Iron Blood Union』との戦の予兆によって乱れ、街全体を覆う緊張感が、かつてないほどの重さを帯びていた。


 この状況の中、自律型AI兵士ヴァンロードであるタリムとラビはミヤビという特異な存在によってひきおこされるであろう”カオス・エクスパンションエレメンタルフォースの制御喪失による暴走”を阻止するという特別な任務を帯び、その行方を追っていた。彼らは『鉄血連合Iron Blood Union』の精鋭の自律型AI兵士ヴァンロードとして、この任務を成功させることができれば、連合のさらなる支配を固める重要な一歩となるはずだった。しかし、彼らの追跡は予期せぬ方向へと進み始める。ミヤビを狩猟するという単なる任務を超えて、『歴史の番人The History Keepers』と『鉄血連合Iron Blood Union』との間の抗争状態へと発展していった。


 タリムは、その不穏な空気を背に“エレクトロチャージャーVX9”に乗り込み、修復作業とエネルギー補給を進めながらロス地区へと向かっていた。彼の目的地は鉄血連合Iron Blood Unionロス支部が本拠地とする要塞都市ロセオ。目的地で彼を待つのは、冷徹なテクノマンサーとの定評がある支部長モリヤだ。


 旧市街アルバが抱える戦の影は、タリム自身の心にも影を落としていた。エキゾチックな彼の褐色の肌は緊張でより一層引き締まり、彼の身を包むシルバーグレーのロングコートは、移動する風にたなびく。タリムはラビの独断専行による宣戦布告を発動した経緯を含めたモリヤへの報告を控え、それが未来に及ぼす影響について、AIBEARTRIXとの間で緻密なシミュレーションを重ねていた。鉄血連合Iron Blood Unionによる理想世界の構築が真の平和をもたらすのか、その思いは彼の内に渦巻いていた。


 AIBEARTRIXのシミュレーションでは、『歴史の番人The History Keepers』たちが燈し続ける抵抗の灯火ともしびが、この理想世界の建設に隠された矛盾を照らし出していた。時を越えて古の時代から護り伝えられる遺産を守る彼らの存在は、世界の釣り合いを保つために終わりなき戦いを続ける存在だ。その影の役割は、『鉄血連合Iron Blood Union』の支配による平和とは、根底で異なるものだった。


 タリムはモリヤへの報告を前に、ラビの行動とその結果に思いを馳せる。彼らの戦いは、ただの地域紛争ではなく、未来を左右する重大な局面だ。彼の車両がロセオに近づくにつれ、その重圧はさらに増していった。AIBEARTRIXとのシミュレーションは、理想と現実のギャップを浮き彫りにし、タリムはそのギャップを埋めるためには、『歴史の番人The History Keepers』たちとの共存、あるいは対話が不可欠であることを痛感していた。


 しかし、その道は険しく、ラビの行動は既に緊張を極限まで高めていた。タリムは、これから自らが取るべき行動と、モリヤにどのように報告するかを考えながら、アルバ地区を後にした。彼の心中には、戦いの中で失われていく無数の命と、それでもなお燈し続ける希望の灯火ともしびが重くのしかかっていた。

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