なぜなら眼鏡が本体だから

長月瓦礫

なぜなら眼鏡が本体だから


トリあえず、私には三分以内にやらなければならないことがあった。

それは、サワタリの眼鏡を粉砕することである。

破壊という言葉では足りない。粉砕という言葉がふさわしい。


奴の眼鏡を木端微塵にしなければ、私の気が済まない。

サワタリに恨みはないが、これも私自身の世界を守るためだ。


私はサワタリの眼鏡を手に取った。


サワタリの眼鏡は普通の安っぽい眼鏡だ。本人を体現したような眼鏡だ。

長年使用しているからか、レンズに細かなキズが入っていること以外特徴がない。


どこにでも売っていそうな平々凡々な眼鏡だ。

サワタリをわずかに構成する物質にしてサワタリの本体でもある。


これがサワタリの本体だ。奴の本体は心臓でもなく脳でもなく眼鏡だ。

眼鏡を身につけなければ、サワタリの眼はなくなったも同じだ。


眼が見えなければ、この世界を生きていくのは厳しいだろう。

敵を倒すときも同じだ。まずは、目を潰す。


だから、私はこの眼鏡を粉砕する。

サワタリは席を外している。チャンスは今しかない。


私はゆっくり息を吸って吐きだした。

私は今から、サワタリを殺す。


私は眼鏡を床にたたきつけ、足で思い切り踏んだ。

何度も何度も踏みつける。


レンズはめちゃくちゃに割れ、フレームはへし折れた。

私の足元には眼鏡だった何かがある。

もう二度とサワタリは眼鏡を身につけられない。


しばらくして、サワタリが戻ってきた。

奴は一目散に砕け散った眼鏡に駆け寄った。

バラバラになった眼鏡の欠片を拾い上げ慟哭した。


「めがねえ……めがねえ……」


「そうさ、お前の眼を潰してやった。何も見えないだろう?」


私の声を聴いて、顔をぐっと上げる。

憎しみと怒りで入り混じった顔で私をにらむ。


「何でこんなことしたんだ! 俺が何をしたってんだ!」


「お前が宇宙人だから」


サワタリは呪詛を吐きながら、ゆっくりと溶けていく。

本体を壊した今、体を再生する術がないのだろう。


眼鏡の欠片を飲み込み、彼は目の前からいなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なぜなら眼鏡が本体だから 長月瓦礫 @debrisbottle00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説