第3話 恋愛カレンダー

 池の真ん中にある小さな社で、美しい女と小太りな中年男がなにやら話をしている。

「最近、よく耳にするんですけれど『恋愛カレンダー』ってご存じですか」

「なにそれ?」

「なんでもスマホのアプリらしいのですが、その『恋愛カレンダー』に願いを込めると恋愛が成就するっていう話なんです」

「へー、なんでそんな話をわたしにするわけ?」

「実はですね……」

 小太りな中年男は眉を八の字に下げながら小声で美しい女にぼそぼそと話す。

「はあ? 聞いてないわよ、そんなの」

「ですよね……」

「ちょっと、どうなっているのよ。責任者に連絡しなさい」

「そうなりますよねー」

 小太りな中年男はそう言うと、スマートフォンを取り出して『恋愛カレンダー』のアプリ開発会社への連絡先を調べ始めた。


 妙な噂が流れたのは、それから数週間後のことだった。

 恋愛成就アプリ『恋愛カレンダー』で成立したカップルは、弁財天の嫉妬によって別れさせられてしまうというものだった。

 その噂は女子高生を中心に妙齢女性たちに広まり、あっと言う間に誰も『恋愛カレンダー』をダウンロードしなくなってしまったのだった。

 これに困った開発会社の人々は、どうしたものかと頭を悩ませた。

 そんな折に、一本のメールが届いた。


 後日――――

 池の真ん中にある小さな社では、神主による祝詞があげられ、池にはお神酒がまかれた。

 恋愛成就アプリ『恋愛カレンダー』。恋愛成就の神様、弁財天様公認アプリ。

 いつの間にかそんなサブタイトルまでもがついている。

 アプリ内には、特別な日が来ると弁財天のキャラクターが登場して、恋愛成就のスタンプを押してくれるというイベントが発生する。


「ただでわたしの力を借りようなんて思わないことね」

 弁財天は小太りな中年男にそう言うと、小太りな中年男はごまをするようにして、オーバーリアクションでうなずく。

「神様だって無償で力を貸すわけじゃないのよ。ちゃんと、神を敬い、大事にする人にしか力は貸さないの。当たり前でしょ」

 弁財天はそう言うと、奉納された日本酒の入った盃をおいしそうに傾けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スミヲのオムニバス 大隅 スミヲ @smee

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ