第2話 心霊スーツ

 放課後の旧校舎裏にある、通称、物置小屋。

 かつては体育倉庫として使われていた場所だったが、新校舎が完成したしたため使われなくなったことから、とある同好会が部室として使うことを許可された場所だった。

 学校側からとしてみれば、空いた物置小屋を放置して、不良生徒のたまり場となってしまうよりは、同好会など部室を持っていなかったところに開放した方が有効活用できるだろうということで使用許可を出していた。


「ねえ、あの話を聞いた?」

「何の話だい?」


 物置小屋の中。カーテンを閉め切り、電気もつけずに薄暗くした状態で、男女がふたり囁き合っている。


「人間って、死んだ後にどうなると思う?」

「火葬場で焼かれて残った骨を墓に……」

「いや、そんな現実的な話じゃなくて、わたしは魂のレベルの話をしているの」

「ああ、そういうことか。それについては、本当のことを知る人間は誰もいないだろ。なぜなら、人間は死んだ時点で脳が停止し、すべてが終わってしまうのだから」

「肉体から解き放たれた魂は? 死後の世界は?」

「そんなものがあるかどうかなんて、誰も知らないだろう。宗教的には死後の世界は存在するという風になっているけれども、現実的に考えてもそれを証明することはできない」

「じゃあ、転生は?」

「それもどうだろうね。たまに前世の記憶があるとかいう人もいるけれども、科学的には何の証明も出来ない。そもそも誰が言い出したことかは知らないけれど、人類の長い歴史の中で誰もそのことを証明できた人間はいないじゃないか。タイムマシンと同じだよ、タイムマシンで未来から過去に来た人間は誰もいなくて、それを証明できる人もいない」

「ちょっと、なに言っているのかわからないんですけれど」

「兎にも角にも、死後の世界や転生というものは存在しないのだよ」

「夢の無い人……」

 そんな会話を男女が続けていると、物置小屋の引き戸がガラリと開けらた。


「先輩たち、こんな暗い部屋で何をしているんですか」

 扉を開けて入ってきたのは、お下げ髪の背の小さな女子生徒だった。彼女は男女ふたりの後輩である。


「ちょっと、怪談百物語をしていてね」

「そうでした。そんなことよりも、これを見てください」

 彼女が持ってきたのは一枚のプリント用紙だった。プリントの右端には学校と同じ名前が書かれており、その下に「新聞」という文字もある。どうやら、新聞部が発行している学校新聞のようだ。


「これがどうかしたのかい?」

「ちゃんと見てください、これですよ、これ」

「ん? 心霊スーツ?」

「はい。この写真です」

 後輩ちゃんの小さな手が一枚の写真を指差す。

 そこには、修学旅行の時に撮られたと思われる写真が載っていた。


「これは、我がクラスの写真ではないか」

「えっ、そうなんですか」

「ほら、ここにぼくの姿が……って、あれ?」

「先輩……いませんよ」

「本当だ、いない」

 写真にいるはずの男子生徒の姿はそこにはなく、学校の制服だけが写っていた。


「あ、心霊スーツ」

 女子生徒が呟く。


「ぼ、ぼくのことなのか、この心霊スーツっていうのは! というか、ぼくの顔はどこへ消えたんだ」

 男子生徒は大声を発しながら物置小屋から飛び出して行ってしまった。


 その数日後、新聞部と写真部が記事の捏造を認めるお詫びの新聞を発行したのだった。

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