スミヲのオムニバス
大隅 スミヲ
第1話 砂の王国の砂
天気の良い日の昼下がり、大通りから少し離れたところにある住宅街の路地裏。ちょうど袋小路となっている場所では、いつものように井戸端会議が開かれていた。
そもそも、井戸端会議の井戸端とは何なのか。現代人にとっては、まったくもって何のことだかわからないことである。井戸端。そう、読んで字のごとく、井戸の
井戸はなくなっても、何人かが集まれば話は盛り上がってしまい時間を忘れて話し込んでしまう。それはいつの時代も同じことだった。
「なあ、お前んちって何を使っているんだ?」
「え、うちは普通のやつだよ」
「普通って何だよ」
「いや、特徴もなくオーソドックスなやつ」
「ふーん、そうか」
「なんだよ、その言い方。お前んちは、どんなを使っているんだよ」
「知りたいか?」
「勿体ぶらないで教えろよ」
「聞いて驚くなよ。うちは、ヒノキだ」
「ええっ! ヒノキ!」
思わず大きな声を出してしまう。
「ヒノキってことは、いい匂いとかしちゃうのか?」
「ああ。木の香りがとてもさわやかだぜ。あれは癒される」
「でも、さわやかな匂いで癒されるっていうのも、なんか違う気がするんだけどなあ……」
「うるさいな、普通のをつかっているやつに、とやかく言われたくはない」
「お前のヤツ、相当臭いんだろうな。だから、ヒノキなんて……」
「黙れっ!」
怒りのあまりパンチを繰り出す。
「おいおい、殴ることは無いじゃないか」
「お前が悪いんだ。俺のことを馬鹿にするから」
そんな言い合いをしていると、彼女がやってきた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと言い合いになって」
「暴力はダメよ」
「ご、ごめん」
「何が原因で、こんなことになったわけ?」
ふたりは事のあらましを彼女に語って聞かせた。
「あら、ヒノキって素敵じゃない」
「だろ。さわやかな気分になれるんだぜ」
「キミは、どんなのを使っているんだい?」
「あら、そんな質問をレディにしちゃうわけ」
彼女はそう言ったが、満更でもないような顔をしていた。
「いいわ。教えてあげるわ。わたしのところは、砂の王国の砂よ」
「ええっ! 砂の王国の砂っ!」
「そうよ。だって、わたしはペルシャ猫だもの」
「恐れ入りました」
そういって三毛猫と黒猫は、ペルシャ猫の彼女にひれ服すような姿勢を取った。
え? 何の話かって? 猫の砂といえば……お食事中の方には失礼しました。
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