■牢屋の英雄
プランドーは町の牢屋にとらわれていた。
マリーゴールドが「人質のフリをして逃げようとした野盗の可能性」を指摘したからだ。
「おいてめえ、これが久しぶりに再会した幼馴染にすることか?」
鉄格子の向こうで口を曲げて抗議するプランドー。
マリーゴールドは邪悪な笑顔を浮かべる。
「お黙り、私の命の恩人のプランドーくんはもっとカッコよくて素敵な青少年なのよ。まかり間違っても、野盗くずれに捕まえられたりしないのよ~♪」
人はそれを現実逃避とか、記憶の美化という。
歌うように語るマリーゴールドにあきれて、プランドーは困ったように抗弁する。
「だーかーらー、連れの子どもを人質に取られて仕方がなかったと説明しただろ。俺だって自分一人なら、あんな連中に負けやしねえよ」
「ま、しばらくは牢屋で頭を冷やしなさい。お連れ様の世話は私が任されてあげるわよ」
そう語るマリーゴールドのとなりには、不安そうな少女が立っていた。
声を出せない女の子が、プランドーとマリーゴールドを交互に見つめている。
少女の不安を見て取って、プランドーが笑ってみせる。
「心配するなよ。すぐにここを出られるさ。そこのお姉さんも、性格は悪いが、心根はそこまで悪い奴じゃない。もうちょっとだけ待ってくれな」
声を出せない女の子は、うなずき、マリーゴールドの裾を引いた。
世話役のマリーゴールドが、少女を連れて、用は済んだと言いたげに去っていく。
その背を見送って、プランドーはまた、牢屋で眠りにつくのだった。
◆◆◆
「ところで、あなた、何者なの?」
声を出せない女の子に、マリーゴールドは問いかけた。
きょとんと眼を丸める少女に、マリーゴールドは告げる。
「あのプランドーが連れてきた娘だものねえ。どういう素性のお姫様なのかしら? よかったら、筆談で教えてちょうだい。悪いようにはしないから、ね?」
答えたくないと、少女は首を横に振った。
マリーゴールドは少しだけ両目を厳しくする。
「ひどいお姉さんでごめんなさいねえ。だけど、プランドーを牢から出すには、あなたの協力が必要なのよね。あいつが野盗の仲間ではないと、証言する誰かが必要だから」
「!!……!!……」
「怒らないでよ。私はただ、あなたのことが知りたいだけ……さあ、教えてちょうだい」
――町を激震が襲ったのは、その時だった。
爆撃だとわかる轟音がとどろき、火球の数々が道行く人と家屋を吹き飛ばす。
見ると、ウィングドラゴンが統率するワイバーンの群れが、西の空を埋め尽くしていた。
それが魔王軍の航空戦力だとわかるのは、足元の人間を容赦なく殺すからだ。
襲撃に対抗すべく、町の治安維持部隊が出動したが、焼け石に水。
ろくに飛行魔法も使えない駐在の騎士たちは、爆撃で蹴散らされてしまった。
これにはさすがのマリーゴールドも、苦い顔をする。
(まずいわね……でも、こんな辺境に魔王軍がやってくるなんて、どういうこと?)
その疑問に対する答えは、少女の筆談が教えてくれる。
『彼らは、わたしを、追って、きたの』
『わたしは、死んだ竜王の娘。平和を望む、竜王の遺志を継ぐものだから』
『みんな、わたしを、邪魔に思っている、から』
魔族の思想もまた、一枚岩ではないと伝えて、竜王の娘は悲しくうつむく。
『彼らはきっと、わたしを殺しに、やってきたの』
「おっけー、なら私が助けてあげる」
「?」
不思議そうにしている竜王の娘に、マリーゴールドはニヤリと笑いかける。
「冒険家業で厄介ごとには慣れっこなのよ。プランドーにも恩を売れるし、ちょうどいいわ」
皮肉めかせて語るマリーゴールドは、危機的状況を分析して考える。
(とはいえ、逃げ出すには分が悪い。強行突破が必要ね)
西の空を埋め尽くし、さらには町を包囲するように布陣するドラゴンとワイバーンの群れを見つめて、マリーゴールドは呪文を唱えた。
それは広範囲を制圧するために軍事目的で使用される炎の極大攻撃呪文だ。
ふつうなら個人があつかえるような規模の魔法ではない。
だというのに――「【オメガフレイム】」――マリーゴールドは気楽にソレを扱った。
西の空と包囲網に風穴があく!
大勢がうろたえ、混乱して悲鳴を上げる。
その瞬間を見計らって、マリーゴールドは竜王の娘を抱え、大空に飛び出した!
◆◆◆
「ほお、もう追手が来たのか」
牢にとらわれたプランドーは状況を察して、浅い眠りから覚めた。
寝起きでだるい体を起こして、鉄格子の前に立つ。
なにをするつもりなのか?
他の囚人たちから好奇の注目を一身に受けた彼は――
「んじゃまあ――行くかあ!」
雷鳴が一閃!!!! プランドーは
リライト・アンド・スカイ~茜色の空と夜叉の剣 @futami-i
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