タイトルに偽りなく、正にイルネス(病気)と闘う戦士たちの物語です。
世界観は、ギルド(本作では会社)に所属し、パーティーを組んだ仲間たちと共に依頼をこなして報酬を得る、というタイプのバトルファンタジーがベースとなっています。
ジョブ、武器、防具、戦闘スタイルなどの基本設定がしっかりと作り込まれており、それらを活かした戦闘描写も大迫力で、純粋にファンタジーとしてのクオリティが高いです。
しかし、本作はそれだけに留まらず、主人公を含めたパーティーメンバー全員が精神疾患を抱えている、という衝撃的な特徴があります。
生きる為に薬の服用や通院を余儀なくされ、精神が安定していないと外にも出られない、たまたま自分の調子が良くても他のメンバーの調子が悪いと本領発揮できない、一度沈むと際限なく自分を追い込むような思考に襲われる……。
心も体もボロボロにしながら、それでも必死に前へ進もうと足掻く主人公たちの姿を応援せずにはいられません。
地に足を着けて、どころか、這いつくばって懸命に生きる戦士たちの生き様が、一人でも多くの読者様の胸に届くことを願います。
93話まで拝読させていただいた上で、これを書いています。
依頼を受けて難題を解決する職種、冒険者。ファンタジーに於いては極めて一般的で、説明は要らないかと思います。
この物語の主人公ルークを始めとする五人も前述した冒険者なのですが、彼らが所属する「株式会社イルネスカドル」は、少しばかり毛色が違っています。
他作品の冒険者達と彼らが一線を画している要素…それは、所属する全員が何かしらの精神疾患を抱えている事。
この物語は、冒険者として依頼をこなしながら、主人公ルークが自身や過去、そして仲間や世間と向き合い、自問自答しながら疾病と闘っていく、唯一無二のファンタジー小説です。
物語は鬱病を患うルークの一人称で進んでいくのですが、彼の思考や言動の端々に見える微細な揺れや痛々しさは、疾患を身近にする人は勿論、詳しくない方でもきっと息を呑むリアリティーがあります。
これはルークを囲む仲間達にも同じ事が言えます。皆一様に辛い事情を抱えていて、でも簡単には話せない、話したくない。それが互いに分かっているから踏み込めない、踏み込みたくない。この絶妙な距離感を文体で表してしまう作者様の力量が凄まじいです。
それでいて、ただ暗く悲しいだけに留まらないところが、この物語の素晴らしいところです。
時にはぶつかり、時には間違い、反省や自省を繰り返しながらも徐々に絆を深めていく彼らには胸が熱くなりますし、ルークの思考が突っ走ってしまう場面や、仲間達とのやり取りの中にはクスリと笑わされる事も多いです。特にログマが相手の時は最高です。
そして彼らは冒険者。依頼によって魔物と対峙する場面は少なくありませんが、精緻に書かれた生々しい戦闘描写は痛みや疲労までもが伝わり、きっと息を呑んでしまうはずです。
また世界観や人物設定にも、作者様の非常に強い拘りが散見されます。ハルバードをメインウェポンにする人物など、他作品では先ずお目にかかれません。そんな彼らがあまりにも生き生きと動き回るので、必然、愛着が湧いてしまい……現在、推しを決めかねている状態です。
少し脱線してしまいました。上手く生きられないルーク達と、辛くて苦しくて、でも希望を失わない旅路を共にしていただけるのなら、本当に嬉しいです。
剣士ルークの再就職先、イルネスカドル。そこは精神疾患を抱える者たちが所属する会社で、ルークもまた鬱病を患っているのだった。彼らは共に生活し仕事をこなす中で、時にぶつかり、互いの弱さを受け入れ、思い遣り支え合う。
苦しみからは逃れられず、一進一退する症状には振り回される。でも、そんな中でも前に進もうと常に努力し、必死で生き、そして、生きるために必死で頑張っている。藻掻くルークたちの生き様が心を打つ、ここでしか読めない現実に即したファンタジー。
「心の病」や「闇」、「傷」といった表し方をすると、どこか感情面に重きを置いたものに感じがちなのではないでしょうか。こちらの作品では明記されているとおり、登場人物たちの状態を「疾患」として冷静に捉えています。
私の完全な主観ですが、冒頭の時点から、作者様は精神疾患に対する生きた知識をお持ちの方なのではないかと思いました。本などから得られる知識としての理解だけでなく、実際の現場に触れて得られる雰囲気や生の知識といったものを感じました。
疾患による影響を受けた複雑な心理過程や、その末に表出される言動。細部にまで意味を持たせた、こだわりのある描写や台詞。そういったものにより、キャラの苦悩だけではなく、様々な情報を受け取ることができたように思います。
これらの描写だけでも非常に現実感があると思うのですが、作中では服薬・通院といった治療も描かれ、さらには(これも主観ですが)グループホームやピアカウンセリング、認知行動療法といった実在するものを彷彿とさせられるような部分もあり、そういう点からも、より現実的なものが描かれている作品であることを感じました。
キャラたちは、モデルとなる疾患の知識から「作られた」のではなく、作者様自身がそこに生きているキャラたちの人柄や抱えているものを理解し、描いている印象を受けました。
みんな良いところを持っていて、努力もできるし、能力もある。仲良く絡む様は「普通」にも見える。でも、気の持ちようではどうにもならない、例え頭ではわかっていても辛い思考や感情を止めることができない。体が動かない。そんな儘ならなさを抱えています。
それでも生きるためには衣食住が必要だし、稼がなくてはなりません。パーティ、クエスト、バトルというとファンタジーを感じますが、この作品においてはそれらは仕事、生活がかかっているもの、生きていくために必要なものです。そういう点からも、この作品が現実に即したファンタジーであることを感じました。
ルークの優しさや、周りの仲間への理解、自分への思いを通して、作品に流れる精神疾患者への肯定を感じました。
間違いなくファンタジーだけど、その世界で精神疾患を抱えながらルークたちは懸命に生きている。その様は感情的でもなく、悲劇的でもなく、力強く、とても人間らしいと思いました。
病気のあるなしに関わらず、いろんなキャラたちの良いところ・悪いところに目を向けているのも、この作品の魅力だと思います。
ファンタジーが好きな方はもちろん、ヒューマンドラマが好きな方、精神疾患というものが気になる方、診断は受けていないけど何かしらの辛さを抱えている方、人を多角的に見たい方、必死に藻掻く生き様に美しさを感じる方などなど。
たくさんの方にオススメしたい作品です!
※83話までを読んでのレビューです。
かなりの変わり種な異世界の冒険者ものです。
冒険者生活、というのをリアルなお仕事ものとして掘り下げる作品は、ままあるかと思われますが。
この作品の場合、パーティ全員が精神疾患を患ってる!
でもフィクションでよくあるようなマッドなキャラとか、倫理観が崩壊して犯罪しまくるサイコパスとかじゃない。
現実世界の我々の回りにもごく普通にいる、鬱病などの病状をもってる人たちなんですね。
そういった病状を抱えるせいで、一般社会で生きづらい彼らは、『株式会社イルネスカドル』という、いわゆる冒険者ギルドを作り、そこで互いを支え合いながら共同生活をしています。
そして主人公の剣士ルークが、その会社に入るところから、物語が始まります。
が、仲間全員が癖ツヨキャラすぎる。
日常生活はカオスそのもので、ドタバタなコメディタッチで描かれます
喧嘩や暴力沙汰も日常茶飯事ですが、互いに相手の病状を理解しあっているため、揉める度に相手への理解がさらに深まり、逆に絆が強まっていったりするのが面白い。
その逆に、『外部委託の軍事事業』いわゆる冒険者への依頼をこなすときは、シリアスタッチ。
日常生活のドタバタで身につけたチームプレイで、鮮やかに依頼をこなしますが──。
戦闘の中で描かれるのは、人同士の生々しい感情のぶつけ合い。
かっこよさや、外連味よりも、『外部委託の軍事事業』などという危険な仕事をするしかない者たちの、魂の叫びが印象に残ります。
でも、全編を通して感じるのは、これは暗いお話じゃない、ということ。
キャラクター全員が病を抱えながらも、必死に生き抜こうと前向きにがんばってるんですよねえ。
パーティメンバーが、それぞれの立場によりそって、助け合っていくなかで、だんだん絆が深まっていく様子は、あったけえです。
というわけで、この作品はこんな方にオススメです。
:冒険者生活をリアルに掘り下げた系が好きな方。
:苦境の中でも、仲間と助け合い、明るく元気にがんばる主人公が好きな方。
:濃いめの人間ドラマを見たい方。