東方諸国内戦

第1話

《東方諸国連合》


 かつて、争いを繰り広げていた十三の小国が、他の七大国に対抗するために発足。しかし、宗派の違いや領土問題により、激しい内戦が続いている。


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【正統歴1702年 12月】



 傭兵として色々な申請をしたのちに、即戦力として所属先が決まった。


「補充要員に、即戦力として傭兵を混ぜておくと言われたんだが……」


 隊員との顔合わせを兼ねて、昼のブリーフィングが行われている。


「まさか、軍部はガキと傭兵の区別もつかなくなったのか?」

「ギャハハ。隊長。ちげぇねぇ」

「黙ってろ。バドック」


 重いため息が吐き出される。

 顔合わせといっても、下っぱなため百人隊の隊長とではない。十人隊の隊長だ。

 補充要員として、この十人隊に配属されたのは、自分以外に二人いる。


「アガサ・ファレクラ。十五歳、傭兵。シース・セルザフォート。十五歳、傭兵」


 俺等の詳細が読み上げられ、再び重いため息。


「後で軍部にもっとちゃんとした詳細書を作るように求めるとして、だ。テメェらガキども。無駄死に以上は期待しないが、最低でも俺等の盾にはなれ」

「はい」

「……」


 隣の銀髪赤眼の少女、シースは返事をしない。どこか気に障ったのか、それについて咎めた。


「返事は?」

「……はい」


 隊長の命令については、何か反応くらい示せ。と吐き捨て、三人目の補充要員の詳細を読み上げる。


「お前は、新卒の正規軍か。ナラム・セスハウ、帝国に貢献できるよう、精進するように」

「はいッ! 微力ながらも、隊長殿のご期待に応えられるよう、努力していきたいと思います」

「よろしい。ガキ二人もこれを見習うように」

「はい」

「……はぃ」


 チッと舌打ちをして、「バドック、補充要員についてはお前に任せる」と締めくくり、ブリーフィングが始まった。内容としては特には何もなく、補充要員のための状況説明といったところだった。


 連合の十三カ国の中で二番目に大きい、グイア帝国の傭兵として俺等は参戦した。理由は単純明快。報酬金が一番高いから。それでも正規軍には及ばないのだが、他の十二国に比べれば比較的高い方だと言える。


「と、言う事で当分はというか、これからも占領された街の奪還といった感じだ。では、ここ等で解散する」

「はッ!」


 ここまで声が揃っていると、一種の洗脳にも見えて面白い。そのまま隊員は各自テントの外へと出て行くが、何も勝手がわからない補充要員の俺等三人はオロオロと立ちずさむことになった。


「よっしゃ。隊長の邪魔になるから早く、三人でてこい」


 先ほど隊長に黙れと言われていた人だ。チャラそうともバカそうとも言える。


「あそこは、隊長の部屋だから容易に立ち入るんじゃねぇ。俺等みたいな隊員は基本的に雑魚寝だ。それが嫌ならばさっさと手柄を上げる事だな」

「はい! 頑張りたいと思います」

「いい意気込みだなぁ。突撃兵の寿命は平均で半年だ。明日だって生きてっかどうか分らねぇのによ」


 バドックの言葉に、ナラムは口をつぐむ。そんなに当たり前のことも知らずにやってきたのだろうか? 戦場がお花畑とでも思っていたのならば、役に立つはずがない。早々に送り返した方が、部隊のためではないかとも思ってしまう。


「基本的に傭兵は、手柄を立てても報酬金しかでねぇ。お前等は諦めるんだな。ハハハッ!」


 名のある傭兵ならば、交渉次第で正規軍以上の報酬金が出されることもある。ただし、俺等は傭兵としては駆け出しのため、そんなことが出来るほどの名誉はない。


「情報の提供、ありがとうございます」

「おうよ。お前等がガキだったとしても、部隊に入ったからには軍人。これくらいはなんて事ねぇ」


 部隊長に比べたら、まだ良い奴なのかもしれない。

 寝床とも言えないような穴を掘っただけの場所に案内され、ここで寝るようにと言われた。この夜に知った事だが、ちょっとした縄張りができているようで、新入りに場所などなく、どうにか開いた二つのスペースを二人で使うことになった。


 その後、昼食を取る場所を教えてもらい、三人も各自解散となった。昼食でも取ろうと、先ほど教えてもらったところへと向かう。


「俺等の配属先が同じだった事は、幸運とでも言うべきか」

「……」


 それについてきたシースに話しかけるが、いつも通りのダンマリだ。


「まあ、別にいいんだけどな」








 いい食事とは、腹を満たし、栄養があるもの。


「オェ。マッズ! 前線の飯はいいって聞いたのに、全然良くねぇじゃねぇか!」


 味など気にしてられるものでは無い。


「なあ、お前等は平気なのかよ!」


 まずいまずい喚いているナラムは無視。俺からしたら、そこまで不味いようには思えないし、シースも何も言わずに口に運んでいる。なんなら、久しぶりの味と言ったところか。


「おーい。無視すんなよ。同期だろ」

「量もあるし、栄養価も高い。これ以上の食事はないだろうよ」


 勘弁してほしい。馴れ合いは苦手だ。


「少し気になったんだけど、お前等二人ってさ、どう言う関係?」

「あー。それ、僕も気になりますね。特に、若い人たちのそういうのは、ここじゃああまり聞けませんから」


 そう言ってお椀を片手に寄ってきたのは、同じ十人隊のブラウンさん。多分、この十人隊の中で一番強いし、まともな人間だ。そして、戦争というものをよく理解しているとも見える。


「別に、面白いものでもありませんし、過去がまともであればこんな傭兵なんてやっていません」

「えー。もっと、なんかこう……ないの?」

「強いて言えば、利害の一致した国外逃亡者と言ったところですよ」


 特に面白い事はない。それに、自分の言った事はあながち間違っていない。


「シースちゃん。アガサくんはこう言ってるけど、どうなの?」

「……」


 人見知りで通せれば楽なものなのだが、こう、平然と食べ物を口に運んで無視してますとでもいうような態度を見せられると、対応が厳しい。そして、その弁解をするのも俺の仕事になるのがまためんどくさい。


「無視かー。それ、僕には別にいいけど、隊長にはしない方がいいからね」

「だとよシース」

「……」


 それでも何も言わないシースは、本当に人付き合いが苦手なのだろう。いや、ツンツンしてるというか。まあ良いか。


 食事を胃に詰めて、さっさと寝床に行く。リラックスできる空間ではないが、静かで落ち着くため休憩には適している。これが雨になったら最悪な空間に生まれ変わるのは、想像したくもない。


 壁にもたれかかって座ると、その横にシースも座った。俺は銃の分解とメンテナンスをする。


「あ。二人とも。隊長が使ってる武器を報告しにこいだとよ。隊長の聞き忘れだから、遅く行っても何も言われないけど、できるだけ早めにね」


 遅れて戻ってきたブラウンさんが言った。面倒くさいなと思いながらも、部品の組み立てを行い、それを持って隊長のいるテントに向かう。説明するならば、実物も持って行った方がいいだろう。シースも同じように自分の使っている武器を持って、付いてきた。


「やっぱ、君たちそういう関係じゃないの?」

「そもそも、『そういう』というのが何を指しているかわかりません。では、隊長殿のところに行くので」

「うーい。無礼のないようにね」







 荒涼とした平野で、地面はボコボコとしている。重砲やらなんやらで耕されたあとだ。

 遠くに見える瓦礫の多い街は、占領されたという街だろう。これからの戦場は、あそこになる事も予想できる。そして、攻め手なだけもあり、多くの犠牲者が出るだろう事も。


 市街地戦よりかは、塹壕戦の方がまだマシかもしれないとまで思えるほどだ。


「なあ、ある程度、傭兵やって金を稼ぐにしてもどれくらいやる?」

「さあ」

「ここにいれば、少なくとも衣食住が提供されるってなると、ずっとここに身を置くのもいいかもしれないけど、何かしらは考えておかないとだな」

「……」


 戦いや逃走経路の事ならば、何か提案は出してくれるものの、他の会話は皆無。なんとなく共に行動をすることになったんだから、少しくらいコミュニケーションを。と思ったが、会話がない方が確かに気楽かもしれない。


「アガサ及び、シースです。使用している武器についての報告に参りました」

「入れ」

「失礼します」


 隊長は不機嫌そうに何か紙を見ながら、ベッドの上に座っていた。


「いいぞ。話して」

「はい。失礼します。自分は八・七リーヌ弾、ボルトアクション式スナイパーライフルを使っております」


 自分で持って来たスナイパーと、弾薬を見せる。一通り確認すると、鋭く睨まれた。


「ああ? バカなのか? 突撃兵だというのに、何こんなバカなもん使ってやがる?」

「これが、自分の使用武器です」

「……。まあいい。早く死んでもっとまともな奴が入ってくるって考えれば。そっちは?」


 シースの方に目を向けた。自分が代わりに話す必要はないだろう。たぶん。


「二・九四リーヌ弾。ピストルを二丁」

「……テメェも大概じゃねぇな。剣技は?」

「使えます」

「……短剣を二本」


 そうか。ならばまあ良い。それだけ言って自分の手元の紙に再度集中し始めた。テントから出る間際、


「毎日、明朝五時。ブリーフィングだ。忘れるなよ」


 まあ、一応、悪くはない指揮官かもしれない。

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