中学時代
私の名前は
名前に二つ「よし」があるが、それほどよい人間ではない。かといって悪い人間でもない。もしも世界中の人間を「よい」と「悪い」に分ける線を引くとしたら、私を基準にするといいとおすすめできるくらいには普通の人間だ。ちなみにそんな線を引く奴は間違いなく悪い奴だと思う。
「はぁ……かっこいい……」
そして、こちらは
普通の人間である私と違い、友里香ちゃんは一目で「特別」だとわかる。
新雪のように白くまっさらな肌、はっきりした目鼻立ちに中学生離れしたモデルのような体型。人当たりもよく、スポーツ万能。勉強がほんの少し苦手なのもご愛敬。パラメータのほぼすべてがMAXな女の子だ。
そんな子がどうして私に突然「告白を手伝って欲しい」なんて言ってきたのかは、知り合って半年ほど経った今も謎である。
いや、それ以上に……。
「ねえ。友里香ちゃん。いい加減告白しなよ」
「ええ?! そんな、まだ早いよ!」
半年経ってもまだ告白していないことの方が謎である。
というか、告白どころか、友里香ちゃんは勝也君と口をきいたこともなかった。
「もう夏期講習だよ? こんなに何度も会えるチャンス二度とないよ?」
「だって、勝也君の周りっていつも友達がいて……」
友里香ちゃんの片思いのお相手、勝也君は私達と同じ学校、同じ塾に通う同級生である。
アイドル級の甘いマスクに、県大会で上位に食い込むテニスの腕前。明るく、誰とでも分け隔てなく話せる懐の深さゆえに男女問わず友達が多く、成績も常にトップレベル。こちらもパラメーターは全てMAXのハイスペック男子だった。
彼に思いを寄せる女子(一部男子を含む)は掃いて捨てるほどいたが、あまりにも競合が多すぎるため、恋愛対象とするのはむしろ避けられるという逆転現象が起きていた。
女子間の恋バナで勝也君の名前を出そうものなら、「ニワカ」呼ばわりされることは避けられない。なんのニワカなのかは
「競争率高いかもしれないけどさ、そんなこと言ってたら一生喋りかけられないよ」
「でも私が普通に行っても、相手にされないよ」
「じゃあどうするのさ?」
「……それはね」
友里香ちゃんが私の肩をガッとつかんだ。
「運命! 運命だよ! 私と勝也君には運命的な出会いが必要なんだよ!」
運命。
友里香ちゃんはことあるごとにその言葉をつかった。
「一度も言葉を交わしたこともないのに、偶然同じ高校に進んだ私と勝也君……。そこで初めて話しかけるの! そして……」
『勝也君! あなたのことずっと好きでした』
『え?』
『”偶然”同じ高校に進めるなんて……運命が背中を押してくれてるような気がして、勇気を出したの』
『確かに、運命かもね』
『え?』
『俺も、実はずっと友里香ちゃんのことが……』
「うへへへ……」
「よだれ出てるよ」
彼女の頭がお花畑であることを放置するのは、友人としていささか心苦しいものがある。しかし、自然遺産に勝るとも劣らない見事な花園たる彼女の脳内をずけずけと踏み荒らせるほどに野暮でもなかった。
「でも、どうやって聞きもせずに勝也君の志望校をあてるつもり?」
「安心して。さっき勝也君と友達の会話盗聴したから!」
「あれ、運命ってなんだっけ」
「勝也君ね、先週『ニシコウ』の学校説明会出て、志望校決めたって言ってたの!」
「どこが”偶然”なの。ダブルクォーテーションに申し訳ないとか思わないの?」
「この地域で『ニシコウ』と呼ばれるのは、西桜高校だけ! しかも西桜高校は県内屈指のテニスの強豪校! しかも西桜高校なら私の学力でもギリ届く! ほら、完璧に運命!」
「そこまで調べたら、もう本人に聞くのと同じじゃない?」
「ダメだよ! それじゃ運命にならないじゃない!」
「線引きがわかんないよ」
「よい」と「悪い」の線引きをするのは友里香ちゃんだった。
やっぱり悪い奴だった。
「はぁ。なんでもいいや……頑張ってね」
「うん! 一緒に頑張ろうね!」
「ん? 一緒に?」
「西桜、よしこちゃんの第一志望でしょ?」
確かに西桜高校は第一志望だった。ただ、合格率的には微妙なところで、志望校を下げるかどうか迷っていたところだった。
もしかしてそのこと知ってたのかな?
……どっちでもいいことか。
「……はいはい。告白、手伝うって言っちゃったからね」
「やった! 頑張ろー!」
はじけるように笑う彼女はとても魅力的で、とっとと告白すればいいのに、と思わなくもなかった。
ちなみに、勝也君は国内屈指の進学校、「西鳳高校」に進んだ。それを私達が知ったのは合格発表の後であった。
運命は、そうそう甘くないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます