大学以降

 その後も友里香ちゃんは勝也君との運命的な出会いを演出するため、傍から見れば(見ていたのは私だけだったが)無駄な努力を積み重ねていた。


 その努力の遍歴は重厚長大かつ意味不明であり、概ね全てに巻き込まれた私の口からすべてを語ると紙面が何枚あっても足りない。


 簡易的で恐縮だが、以下ダイジェストにて主要なトピックを記載しておく。


 〇念願かなって同じ大学に進学するも、医学部の勝也君はキャンパスが異なる。

「私も医学部行く! 仮面浪人する!」

「友里香ちゃん文系じゃん。流石に厳しいよ」

「いいもん! 5浪でも、6浪でもして見せるもん!」

「もう彼卒業してるよ」


 〇深夜西鳳高校に忍び込み、勝也君の卒アルを閲覧する。

「ねえ、これリスクとリターン釣り合わなくない?」

「リターンの方が大きいよ! 勝也君との思い出を共有できるんだよ?」

「共有じゃないよ。違法ダウンロードだよ」


 〇勝也君のバイト先の前に車を付けて張り込みする。

「あ、勝也君出てきた! 見て、ゴミ箱持ってる! かわいい!」

「ねえ、私免許とりたてなんだけど」

「……ちょっと襟足伸びてきたな。よしこちゃん。三日後に美容室の前にまたお願い!」

「減点より先に前科がつきそうなんだけど」


 〇勝也君の転勤先を聖地巡礼する小旅行。

「見てこの写真! これが一年前、勝也君が座ってた公園のベンチ!」

「ネトストもここまでくれば特技だね」

「よしこちゃん! 同じ画角で撮って! 寸分狂わず!」

「はいはい。何枚?」

「3桁!」


 ……これらは友里香ちゃんの活動のほんの一部である。大学時代も就職後も、彼女は運命的な演出のために奔走した。


 どうしてこれほどまでに非生産的な努力を続けることができるのだろうか。そんな疑問を抱いた回数は数知れない。そのうち疑問を持つこと自体が非生産的であると判断し、私は考えることをやめた。


「ねえ、どうしてよしこちゃんは私に付き合ってくれるの?」


 あるとき、友里香ちゃんに聞かれたことがあった。


「中学から十年近く巻き込んでおいて、その言い草はないんじゃない?」

「ごめんごめん。でも不思議でさ。よしこちゃん、あんまり表情変わらないし、何考えてるかわからないときあるし。どうして手伝ってくれるのかなぁって」


 はて。改めて聞かれると答えに窮する。

 どうして私は友里香ちゃんを手伝っているのだろうか。


「……乗り掛かった舟ってやつじゃないかな。どんなクソドラマでも途中まで見ちゃったら何となく最後まで見ないともったいない気がするし」

「なるほどねぇ。……あれ? 今私の人生のこと口汚く罵らなかった?」

「気のせいだよ。ほら、次の作戦立てるんでしょ」

「そ、そうだった! 勝也君、最近このバーがお気に入りみたいでね!」


 そう、私は知りたかったのだ。

 友里香ちゃんの、この無謀な運命への挑戦が、どのようなラストを迎えるのか。


 その結末をこの目で確かめるまで、付き合ってやろう。

 それが私の運命ってやつなのかもしれない。

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