もっと幸せミミック
~3年後~
ここは私が生まれ育った天然洞窟ダンジョンの最深部!
私は今、新規開拓されたゾーンに居る。
ここら辺はアンデッドのモンスターが出るらしい。怖いね?
私はいつも通り、宝箱から半身を出して辺りを観察していた。
遠くを犬型のアンデッドがキョロキョロとしながら歩いている。犬型はじゃれついて噛んでくるから厄介なんだよね~。
アンデッドも犬型、猪型やトカゲ型などバラエティ豊富だ。まだ人型とドラゴン型が居ないのが幸いかな? アイツらどんな原理で動いているんだろ??
ただ、アンデッドが出ると言っても数は少ないし……暇だなぁ。
しかし、あれからだいぶ時間が経ったなぁ~。
独りでぼんやりしていると三年前の出来事を思い出す。
不運にも捕まりダンジョンから連れ出されてしまったけど、幸運にも捕まった人間に恵まれて楽しく過ごした。
更に、ダンジョン内で人々から預かった物品や伝言も届ける事が出来た。そして私に知恵と力を与えた人物に攫われて騒ぎになったりと……短い間に色々あったなぁ……。濃いぃのよ。
あの事件の後、ギルドでは前顧問が亡くなったと云う事で大騒ぎになった。事件の翌日、その件についてはユズが適……切にギルドに報告してくれたので、私の存在が
イリス姉さんもフランキンセンス先生から与えられていた薬を飲むのを辞めてから体調が良くなった。薬の影響で色が変わってしまった髪も今ではメリッサやシトロネラとお揃いのブラウンに戻り、瞳もグリーンへと戻りつつある。そして、彼から別れを告げられたショックからも立ち直りつつあり最近では笑顔が増えた。
みんな前に進んでいるなぁ。
はぁ……
「ミュウちゃ~ん! 来たよ~!!」
この明るい声は……リンデンの声だ! と言う事は……
「ミュウちゃんご苦労様。」
珍しい、ユズが遅刻せず来た。そして……
「お疲れ様、調子はどう?」
シトロネラだ! 今では三人ともすっかり大人びてしまった。人間は育つのが早いなぁ……眩しいぜ、
彼等は今も仲良く冒険者を続けている。
シトロネラは剣の腕を認められて、冒険者ランクが上がった! 真面目で誠実な働きぶりとその性格で先輩後輩達からの人望も厚く、ギルドでも役職に就かないか打診されているそうだ! ギルドマスターも夢ではない。
リンデンはあれから様々な治癒魔法を覚えイリスの治療に一役買っている。そして新しい魔法を開発してはギルドから発信して魔法の発展に貢献している。リンデンから魔法を学びたいが為に、ギルド・ローレヌに登録する魔法使い志望の冒険者が増えた。
ユズは三年前の事件をきっかけにリンデンに見直されて彼女と距離が少し近づいたが……完全にくっ付いた訳ではない。
彼女にもっと振り向いてもらえる様に、野望を持ち続け切磋琢磨している。最近ではギルドの幹部達のお気に入りとなり、着実にギルドの裏の支配者として階段を駆け上っている。ただ、闇堕ちしていないので……そこは安心してほしい。
三人とも見た目も私より大人になって……これなら彼等をお兄ちゃんお姉ちゃん呼びしても許されるだろう。もう、『
かという私も髪は薄いピンクに戻り瞳も紫に戻った。顔は相変わらずローゼルの面影を残してるが、シトロ
ローゼルの思考をトレースして一時は彼女になっていたが、炎に包まれ彼女自身が “死んだ” と認知すると同時に、彼女の記憶は “ただの日記帳に書かれていた内容” として消化吸収された。
トレースも出来なくなり、今ではすっかり『ミュウ』に戻った。
当然の結果というか、フランキンセンスに賢者の石を食べさせられた影響で不老不死の体になっているので……私のヘンタイボディーに変化は無い。
リンデンみたいにもっとメリハリが欲しいなぁ……。
はぁ、無いものを
さてと。
……私はやって来た彼らに状況を話した。
「お疲れ様。ちゃんと見てたよ! アンデット怖いね~……
私は相変わらず。モーニングスターを持っている。もちろん、みんなから貰った品々は今も私の中に大事にしまってあり、時々使わせてもらっている。
私はひょいっとモーニングスターを出して構えて見せた。
「全然かまわないよ~。まったく! ギルドも怖いクエスト出してくるよな? アンデッドの生態観察なんて。」
「……このクエスト引き受けたの、ユズじゃない。」
リンデンはジト目でユズを見つめる。
そう、相変わらずユズは無茶なクエストを受注してくるのだ。そして、今回はアンデッドの観察日記をつけることになった。
人間の彼らだとアンデッドに咬まれてボロボロになってしまうので、私が単独で引き受けることになった。
まぁ、ユズの事だ、初めから私にやらせるつもりだったんだろう。……報酬の分け前は弾んでもらうぞ。期待しているよ!!
私はアンデッドの観察レポートをシトロネラに渡した。
彼は長い指でペラペラとレポート捲り目を通す。私が書いた書類などは彼に確認をお願いしている。
さて、今回は褒められるかな? 褒めておくれ。
「言い回しが古い所が有るけど、問題ないよ。よく細かく書いてくれたね。ギルドから追加報酬を貰えるんじゃないかな?」
「古……勉強した教材が古いもので。最新の表現に更新しますか……リンデ~ン! 次の休みに街の本屋さんに行こう! 新しい本買に行きたい!!」
「いいよ、イリス姉さん誘って一緒に行こう!!」
「シトロ、じゃあ僕達は彼女達に変な虫がつかないように後ろからこっそりついて行くか。」
「ユズの趣味に付き合う気は無いよ。そんな事より、ここで立ち話して大丈夫かい? アンデッドは……。」
私達はハッとして周りを見るとアンデッドのギャラリーが出来ていた。皆さんお行儀がいいね。
彼らと目が合うと……
――――ガアァ!! アァァァァッ!!!!
ひぃぃぃぃ! いらっしゃったよ!!
私はモーニングスターを構えて三人に向かって叫ぶ。
「これ振り回すから! みんな先に戻ってて!! あとから追いかけるよ~!!」
「すまないミュウ! 頼んだ!! 中層で待ってる!!」
「オッケー! 報酬、くれぐれも頼んだよ!! うりゃー!!!」
三人はダンジョンの出口へと向かって走り出した。私もサクッと薙ぎ払ってから彼等の元へ戻ろう。
私は今も彼等と共にパーティーで活動し、あの部屋で過ごしている。
きっとこれからも。
飽きるまでいると思う。
「よし! 早く帰っていっぱい食べるぞー!!」
私は世界一幸せなミミックだ。
欲望ミミック ~人間は宝箱に詰め込み過ぎる~ 雪村灯里 @t_yukimura
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