スポーツフェスティバル
専門学校生活も終盤に差し掛かった頃、自分達はあるイベントの準備を行っていました。
それはスポーツフェスというイベント。まあ要は専門学校で行われる体育祭ですね。
で、うちの学校は簿記の学校なのになぜかこのスポフェスにえらい力を入れていて、開催の2か月前から準備を進めていたのですけど……。
気合が入っているのは教員ばかり。この頃になると生徒と先生の間にある溝はマリアナ海溝よりも深くなっていたせいもあり、生徒の中ではスポフェスなんてやってらんねーよって空気が充満していました。
それでも係を決めて、それぞれに分かれて準備を始めることになりました。
自分がなったのは、大道具係。スポフェスで使う旗や団幕、ユニフォームを作る係です。
そして最初の集まりの日、指定された教室に向かったのですが……。
事前に聞いていた話では、大道具係は30人くらいいたはずなのに、集まったのは自分を含めて7人しかいませんでした。
後はみんなサボったのです。
集まり悪いだろうなとは思っていたのですが、まさかここまでとは。
たった7人でどうしようって空気が、教室内に漂っていました。
するとそこに、先生がやってきて言ったのです。
「なんでこれだけしか来てないんだ! お前らやる気あるのか!」
そんな事言われても、文句なら来てない人に言ってほしいです。
どうして真面目に来た自分たちが怒られないといけないのでしょうね?
けどこのままじゃ確かに人数が少ないので、人を集めなければいけません。だから先生に、他に大道具係は誰がいるか聞いてみたのですけど。
「そんなのはお前達で調べろ」
返ってきたのはそんな答えでした。
しかし初顔合わせにも来ていないのですから、だれが大道具係かなんてこっちは把握できていません。
そして多分先生も、だれが来ていて誰がサボっているか、把握できていなかったようで。全生徒を出席扱いにしていたのです。
これには大道具係7人は怒りました。こっちは真面目に来たのに怒られて、サボった人はお咎めなしの出席扱いですから。
ただ怒りの対象はサホった生徒ではありません。いい加減な管理をしている学校側です。
しかしこれに対して先生は、伝家の宝刀を使いました。
「社会に出たらもっと理不尽な事があるんだから、文句言うな。不満があるなら自分達で何とかしろ!」
うちの先生、これさえ言っておけば何やっても許されるって思っているのでしょうか?
結局先生は当てにならないと思った面々は、仕方なく7人で作業を始めることにしました。サボった生徒を探して声をかけようかとも考えたのですが、なんだかそれをやってしまうと先生の手先になったみたいで嫌だからという理由で止めました。
こうして人数は少なかったものの、助け合いながら作業を進めていき、何とかスポフェスまでにすべての道具を作ることができたのです。
学校の対応はともかく、皆で協力して旗を作る作業は、案外楽しかったですね。
しかし、楽しい気持ちのまま終わらせてくれないのがうちの学校です。
そうして迎えたスポフェス当日。自分は先生から、こう言われました。
「無月弟、お前矜持の準備係にしておいたから」
寝耳に水でした。
なんでも人数が足りないから、先生が独断で自分を係にしたみたいなのです。
どうして自分なんだろうと思いましたけど、どうやらアイツは真面目だからサボらず来るだろうって思われたのが原因だったようで。
大道具係の時といい、真面目に生きたせいで損をすることがあるのだと痛感させられました。
というわけで、仕方なく準備係の仕事をやらされたわけですけど。
準備を進める中、先生が再び声をかけてきました。
「無月弟、次の競技の手伝いに行ってくれ。競技に出場はしなくていい」
これを聞いて、なんとなーく嫌な予感がしました。
手伝うだけなら、どうしてわざわざ「競技に出場はしなくていい」と言ったのでしょう?
そして予感は的中。競技の場所に行くと、そのまま出場選手としてカウントされたのです。
先生の中でどんな考えがあったかはわかりませんけど、要は騙して出場させたというわけです。
もちろんこれには納得いかずに文句を言いましたけど、帰ってきた答えは。
「人数が足りないんだから仕方がないだろ。社会に出たらもっと理不尽な事だってあるんだから、文句言うな」
またこれです。
理不尽な事があるからといって、理不尽な事をしていい理由にはならないというのに。
しかもそれなら騙して出場させるのではなく、ちゃんと説明してお願いしてくれればよかったのに。訳を説明されて頼まれたのなら、自分だって文句は言いませんでした。
こうして気分は最悪なままスポフェスは終わり、専門学校生活最後のイベントは幕を閉じたのでした。
振り返ってみれば、何から何まで最悪なイベントでした。
しかし、学校にいいイメージを持っていなかったのは自分だけではありません。
その後卒業式の日、卒業生達は口々に言っていました。
「俺、この先社会に出て何があっても、この学校の先生みたいにはならない」
「就職する会社、うちの学校よりはマシだったらいいなあ。うちの学校みたいな職場に、何十年も勤められる自信ないもの」
「こんな学校、もう二度と来たくない」
やっぱりみんな、気持ちは同じだったみたいです。
あれから十数年。
ブラック企業やパワハラが問題となっている今、あの学校の教育方針がどうなっているかはわかりません。
親の死に目に会えると思うなとか、有休を使ったらクビになると思えとか、完全にアウトな発言ですからねえ。
このエッセイをお読みくださった皆様。ブラックなのは、会社だけとは限りません。
学校を選ぶ際は、くれぐれもご注意を。
了。
ブラック専門学校エッセイ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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