2話 ただのオッサンではない
少し移動すると、オッサンが石に座っていた。
パッと見た感じ、割と小綺麗なオッサンだ。
ドライアドたちが嫌がっていたので、もっと小汚いオッサンかと思ったのだけど、そんなことはなかった。
オッサンの髪色は銀で、髪型はオールバック。
顔は普通。
どこにでもいる普通のオッサンって感じの顔立ち。
恰幅がよくて、服装がなんだか王様みたいな感じ。
赤いマントとか装備してんだよ、このオッサン。
マジどっかの王様なんじゃねぇの?
迷子の王様か?
オッサンがこっちに視線を向ける。
ドライアドたちがサッと俺の背後に隠れる。
王様みたいな格好を除けば、別に普通のオッサンだ。
恐れることはねぇな。
「なんだ貴様」とオッサン。
すっげぇ上から目線だなこいつ。
コホン、と俺は咳払い。
「悪いんだけど、ここはドライアドたちの領域なんだ」と俺。
「それがどうした?」
どうした、じゃねぇよ。
人の家に勝手に入ってるようなもんだぞ。
「この剣のオッサン、終始こんな感じなの」
女王が忌々しそうに言った。
確かにこれはウザいな。
まぁでも平和的に行こう。
俺は平和主義者だからな。
「オッサンは誰で、なんでここに座り込んでんだ?」
「貴様、魔の者か?」
「ん? まぁ、そうだけど……?」
「まぁ良かろう」
オッサンが立ち上がる。
マジで体格いいなオッサン。
背も俺より高い。
「聞いて驚け魔の者よ!」オッサンが急に威厳のある声で言う。「我が輩こそが世界の王者を選定する剣! カリブルヌス・エクスカリバーであぁぁぁる!!」
「寝言は寝て言え」
俺はウッカリ突っ込んでしまった。
エクスカリバーって言ったら、羽々斬に匹敵するレベルの神剣だぞ。
お前はオッサンじゃねぇか。
「ぐぬ……ならば我が輩の真の姿を見よ!」
ピカッとオッサンが光る。
クソ、光るの流行してんのか?
ヴァンパイアにはいい迷惑なんだが?
光が収まると、オッサンの姿は一振りの美しい剣へと変貌していた。
さっきまでのオッサンの雰囲気とはまったく違う。
その美しい剣は神々しさまで放っている。
装飾がゴテゴテしていて、儀式的な意味合いが強そうな剣に見える。
これは本物だ。
俺の審美眼が本物だと告げている。
「マジでエクスカリバーだったのかオッサン。疑って悪かった」
俺は謝罪できるヴァンパイア。
長生きの秘訣だ。
「良かろう。許すぞ魔の者よ!」
エクスカリバーはスッとオッサンの姿に戻った。
オッサンになる時は光らないのか。
てか、剣って人間に変身できるんだな。
もしかして羽々斬と叢雲も変身できるのか?
見たことないけど、あの2振りならできそう。
今度、覚えていたら聞いてみよう。
「名乗れ、魔の者よ」
「あ、俺はヴァンパイアのアルトだ。極めて普通のヴァンパイア」
「……普通?」エクスカリバーが首を傾げる。「普通の魔力量ではなさそうだが……」
「いや、たぶんみんな、こんなもんだぞ」
同族には長く会ってないってか、俺とエレノア以外、絶滅しちゃったから正確には分からないけれど。
もしかして、俺が平均的だと勘違いしただけで、やっぱり俺は平均以下なのか?
「そ、そうか」とエクスカリバー。
「アルト君、オッサンと仲良くしないで」と女王。
「あ、ああ。そうだったな」俺は慌てて目的を思い出す。「オッサン、神剣のあんたが、なんでここに居着いてんだ?」
「単に過ごしやすいからだが?」
ですよねー。
天元の森って全ての生物にとって快適な森だもんなぁ。
いやいや、剣って生物なのか?
「それは理解できるが、ここはドライアドたちの領域だから、ちょっと移動してもらえねぇかな?」
相手が神剣なので、俺はやや下から目線で言った。
「ふむ。我が輩も我が王を探しに行かねばならんのだが、面倒臭くてな」
「オッサンの存在意義!」
「ぶっちゃけ、世界の王を選定しても、実際は世界征服できずに死ぬ奴ばかりでな……」
「大丈夫! 今はもう神々とか滅んでいねぇし、割と世界征服も簡単だから!」
一瞬、世界は俺の物だったわけだし。
「ああ、そうかもしれんな。我が輩も最近、目覚めたのだが『あれ? なんか強い奴が極端に少ないな』とは思ったのだ」
逆に言うと、少ないけど強い奴らが確かに存在している、という意味か。
勇者とか魔王かな。
「今の世界でもう一回、王の選定と世界征服、頑張ってみようぜ!」
俺はテキトーに言った。
俺には何も関係ないからだ。
「うむ。そうだな。今回こそはいけるかもしれんな」エクスカリバーが頷く。「よし、貴様、手伝え」
ん?
「王たる器はそれほど多くない。貴様、我が輩と一緒に探せ」
何ソレ面倒臭い。
エクスカリバーがどっか行ってくれれば、それでいいんだが?
てか、エクスカリバーって長いから以下エクスな。
「アルト君、探してあげて?」
女王が俺の背中に胸を当てながら言う。
「ね?」
女王が俺の耳に吐息を吹きかけながら言った。
「任せろ」
俺はウッカリ自分の胸をドンと叩いてしまう。
これ、【魅力】でもかけられてんのかな?
それとも、思った以上に俺が綺麗なお姉さんに弱いのかも。
「ほう、自信があるようだな貴様」エクスが言う。「すでに候補の顔が浮かんでいるな?」
「ええっと、女でもいいのか?」
「性別は問わん。要は我が輩を扱えるかどうか、である」エクスが言う。「我が輩を扱えれば、それは王の器であるということ」
なるほど。
よし、とりあえずエレノアを紹介しよう。
エレノアは才能ある未来のヴァンパイアクイーンだ。
神剣の1本や2本は扱え……るかなぁ?
まぁダメ元で行ってみるか。
って、まだ寝てるか。
エレノアは最近、俺に会わせて昼間に活動して夜に眠っている。
天元の森は昼間だが、向こうはまだ暗いだろう。
「候補はまだ寝てるから、少し時間を潰そう」と俺。
「一刻も早く出て行って欲しい……けど」女王が言う。「アルト君に任せる。わたくしたちはオッサンと話すことは、何もないからね?」
どんだけオッサンが嫌いなんだよ。
全世界のオッサンが泣くぞ。
まぁいいや、何か話題を振ろう。
「なぁオッサン、羽々斬って知ってるか?」
「……刀の小娘か……。剣のことをナチュラルに見下す嫌な奴だ」
「オッサンと羽々斬ってどっちが強いんだ?」
「貴様! 王者の剣である我が輩が! あんな小生意気な小娘に負けるとでも!? ふざけるな! 呼んで来い! 我が輩が小娘の刀身を真っ二つにしてくれるわ!」
お?
剣と刀の頂上対決か?
俺は平和主義者だけど、安全な場所から他人の対決を見るのは割と好きだ。
時間潰しにも良さそうだし、呼ぶか!
俺は右手を横に伸ばし、「羽々斬」と呟いた。
そうすると、空間が裂けて、シンプルで美しい刀がゆっくりと出現。
「やっほーアルト! はぁちゃんのこと今日も愛してる? 生命体を全部斬る気になった?」
「羽々斬のことは好きだけど、そんな気にはならねぇな」
羽々斬は見た目も声も実に美しい。
だが性格には難がある。
なんせ、羽々斬は斬るのが大好きなのだ。
あたりまえだけど、本質が刀なのだ。
「あー! ナマクラ王じゃん!」
羽々斬はエクスを見てそう言った。
俺は伸ばした右手を何度がギュッと握った。
羽々斬さん、俺の手に収まってね? という意味だ。
「だれがナマクラ王だ小娘! 今日という今日は、貴様をへし折ってやるから覚悟しろ!」
「えー? できるの!? 本当に!?」
羽々斬が嬉しそうに鞘から抜け出し、エクスに向けて飛翔。
エクスは輝き、剣の姿に。
羽々斬とエクスがお互いの刃を叩きつけ、斬り合う。
俺は右手をどうしようか少し考えた。
そんな俺の右手を、女王がソッと両手で包み込んでくれた。
優しい!
惚れちまうぞ!
って、衝撃波がやべぇ!
エクスと羽々斬がお互いの刀身をぶつけた時の衝撃波のこと。
ドライアドたちが即座に【シールド】を展開したから助かったけど。
これが神剣と神刀の戦いか。
二振りは激しい空中戦を行っている。
俺は異次元ポケットから大きなソファを複数出して、その1つに座る。
女王とドライアドたちもソファに座った。
女王は俺の右隣。
左隣にも綺麗なドライアド。
両手に花ってやつだな。
俺は次にワインを取り出し、ドライアドたちにも振る舞った。
完全に観戦モードだ。
さぁてどっちが勝つかなぁ?
万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~ 葉月双 @Sou-Hazuki
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