梨に始まり、梨に終わる

梨畑の美しい描写から始まるこの作品。
読者は昭和史をなぞりながら、男二人の行く末を見守ることになるのだが、心かき乱されるシーンがいくつもあり、考えさせられるテーマを多数内包している。
男とは。女とは。昭和という時代は何だったのか。人間の在り方。変わるもの、変わらないもの。
暴力や性といった、見つめ辛い事柄を真摯に描いている作品でもあり、登場人物たちが皆、血の通った生々しい存在として関わってくるので、そこも見どころである。
男二人の関係は、BLやブロマンスといった表現がそぐわない独特なもので、「良太郎と邦正」としか言えない唯一無二のものである。
そんな二人の結末をどう捉えるのか。
私は「彼ららしい」と思った。あの昭和を駆け抜けた二人には、これしかないというエンディングだったと感じる。
この作品を読んだが最後、「梨」に特別な感情を乗せずにはいられなくなる――それほどまでに大好きな物語だ。

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