第一章 やり直しの時間④

 四阿あずまやに場所を移し、対面に座る私たち。

さきれもなく、急に訪問するなど、申し訳ないことをしたね」

「いえ、とんでもございません」

 準備をしてくれたリッカが下がり、だれにも話を聞かれないじようきようになると、テオドール殿下はお茶を一口飲み、私を見つめた。そのこわいろは優しいけれど、どこか何もかもかすような金の瞳に、かれるような思いがした。

「私がここに来た理由だけれど……実は、君の夢を見てね」

「夢、ですか」

 心臓がどきりとする。つうならば、夢を見たからと私に会いに来たテオドール殿下をしんがるところかもしれないけれど、そうは出来なかった。テオドール殿下の言葉に、私自身が見た意味深な夢を思い浮かべてしまったからだ。

 私だって、あの夢がただの夢だとは思えなかった──。

「今からとつぴようもない質問をするから、もしもちがっていたならば何をおかしなことをと笑い飛ばしてくれていい。……ひょっとして君は、今この時間をり返している、などということはないか?」

 いきなり切り出された話に、息が止まるかと思った。テオドール殿下の言葉が、時間が巻きもどったことを指していることは明らかだ。

 もちろん、笑い飛ばすようなふんではないし、そうする気にもなれない。テオドール殿下はじようだんを言っている様子などではなく、至ってしんけんな表情を浮かべているのだから。

 つまり、真剣にそのようなことを聞く気持ちになる何かが、テオドール殿下にはあるということよね。

 まさか……。

「第一王子殿でんも……すべて覚えているのですか?」

 思わず声がかすれてしまう。おまけに、どうようのあまり質問に質問で返してしまった。

 しかし、さといテオドール殿下には、今の反応で私が二度目の今を過ごしていることがすっかり伝わってしまったらしい。

「いや、残念ながらほとんど覚えていないんだ。ただ、なぜか二度目であることは分かる。巻き戻るしゆんかんの感覚を覚えているよ」

 殿下は気持ちを落ち着かせるように、一度深く息をくと言葉を続ける。

「夢に出てきた君は、聖女ののろいを解きたいのだとうつたえてくる。あまりにも切実に言うから、ただの夢だとは思えなくてね。目が覚めて色々考えているうちに、思わずここまで来てしまった。……だが、来て正解だったようだ」

 聖女の呪いを解きたい……? それは一体どういうことだろう。疑問に思ったけれど、テオドール殿下にもその意味はよく分からないらしい。

「……色々聞きたいことはあるのですが……私の夢にも第一王子殿下が出てきました」

「ふうん? テオドールでいいよ」

「……テオドール殿下は夢の中で、聖女とは何か考えろと私に言いました。それに、私に会いに来て、とも」

 会いに行くまでもなく、テオドール殿下がこうしてすぐに現れたわけだけれど。

「なるほど……君の様子を見る限り、夢は君が見せているわけではないわけだ」

 思わぬことを言われて、まさか、と首を横にる。私にそんなことできるわけがない。

「私の方こそ、殿下が私に夢を通じて何かを教えようとしているのかと思っていました」

 二人揃って夢を本気にして、相手が何かを自分に伝えようとしていたと思っていた。

 普通に考えるとおかしなことだと分かるけれど、それだけの力があの夢にはあったのだ。……そう思うと、ますます普通の夢ではなく、なんらかの意味を持つのではないかと思える。

「さっき、私も全て覚えているのかと聞いたね。つまり君は覚えているんだろう? 君の身に何が起こったのか、教えてくれるかい?」

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聖女の力で婚約者を奪われたけど、やり直すからには好きにはさせない 星見うさぎ/角川ビーンズ文庫 @beans

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