第一章 やり直しの時間①
「初めまして、僕はマクガーランド王国第二王子、ジェイドです」
にこやかに首を
どうやらこれは夢らしい。殿下と初めて婚約者として顔を合わせた時の夢だ。
「お初にお目にかかります。リンスタード侯爵家が
王子様は自分より
「君はもう立派な
「ジェイド様……」
「うん。その方がいいな。僕と君は今日から婚約者となるのだから」
その言葉に、小さな自分が
数日前に開かれた殿下の婚約者を探す
王子妃になりたいなどという大それた願望を持っていたわけではないけれど、やはり自分を望んでもらえるのは嬉しかった。
夢の中では小さな私と殿下が王宮の庭で仲良く並んで遊んでいる。
王妃様が管理されているバラ園を、手をつないで歩き、私が思わず
喜び、幸せに笑み
頬を染めた私を甘く見つめる殿下と、
小さな頃からずっと、こんな風に一緒に過ごしてきて、誰が好きにならずにいられるだろう? 少なくとも、私は殿下のことが大好きだった。
夢のシーンが変わる。
「エリアナ、私のエリー。こっちをむいて」
「ジェイド様……」
小さな頃からその美しさを
「あと三年待って君が学園を卒業すれば、やっとエリーと
「ジェイド様ったら……」
「本当だよ。エリー、私はもう君がいないと生きていけない。君を婚約者に望んだ幼い頃の自分を
「あっ……」
殿下は腰に回した腕に力を入れて私を強く
「愛しているよ、エリー。ずっと私の
「もちろんです……私もあなたをお
甘く見つめあって、愛を
この頃の私は、殿下の愛を疑ったこともなかった。殿下を心から愛していた。本当に幸せだった。
けれど、夢の中ですら幸せなままではいさせてくれないらしい。
景色が揺らぎ、ハッとして後ろを
さっきまで私と殿下がいたバラ園に、デイジーが立っている。
彼女が笑顔で振り向くと、そこにジェイド殿下が現れた。
二人はかつての私たち以上に幸せそうに微笑みあい、身を寄せて何かを
現実では私はここで
ジェイド殿下はそっとデイジーを抱き寄せ、優しく唇を寄せる。たまらず私の目からは涙がこぼれた。
どうして? あんなに愛していると言ってくれていたのに。
早く結婚したいと言ってくれていたのに。
私を選んでよかったと、自分は幸せ者だと言ってくれたのに。
あそこは、私の居場所だったはずなのに。
私には、あなただけだったのに……。
思い出の中で、私に向けてくれていた笑顔が、割れたガラスのように粉々に
抱きしめあったままのジェイド殿下とデイジーがこちらを見て楽しそうに笑った。
「お前との婚約は
笑いながらジェイド殿下が
ああ、あなたは思い出を大事に胸に
絶望に打ち震えたその
ふと、
顔の見えない誰かの足音だけが響いている。足音は、私のすぐ側まで来て止まった。
「聖女とは、何か」
誰かが
「聖女とは何か。考えるんだ」
「何を言って……?」
「考えて、エリアナ。君は考えなくてはいけない」
「考えるんだ、エリアナ。そして、私に会いに来て……必ず」
何を考えるというの……?
そう
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