第2話 〝1〟
(月曜日)
朝、お父さんはちょっと早めに仕事に行った。今日から問題の日が始まる。何があるかわからないから用心したいし、どうにかネットを復旧させたいんだって。
私が起きた時に出発しようとしていたから、慌てて「行ってらっしゃい」と言って手を振った。
私も学校へ行った。
中学校までの通学路でいろんな人とすれ違ったけど、みんなどこかそわそわしている。
クラスメイトも担任の先生も授業なんて上の空だった。お休みの子も結構いる。
私のクラスや私の友達は5~7が多い。みんな落ち着かなかった。
それでも授業が時間割通りに進んでいくし、なんとなくのルーティンで部活にも行った。
連絡はなかったけれど、もしかしたら今日はお休みかもしれないな、なんて思いながら茶道部の部室をのぞく。
学校の依頼で指導を引き受けてくれているお茶の先生がいつも通りお着物で待っていて、ちょっと顔色の悪い先輩が、お茶菓子の羊羹をいつも通りうすーくうすーく切っていた。
でもやっぱりみんな上の空。
集中できなかった部活を終えて下校する。
こっそり教えてもらったお茶の先生の番号は〝3〟だった。
ブロック塀に挟まれた通学路のちょっと先を、隣のクラスの子が歩いている。肩甲骨くらいまである長い髪を見ながら、私はちょっと困ったな……と歩く速度を緩めた。
彼女はうちの学校の中でも嫌な噂の多い子で、誰かが言っていたけれど、小学校の時に同じクラスだった女の子を自殺に追い込むまで虐めたんだって。
噂は噂なんだけど、その噂を肯定するように隣のクラスはその子を中心に荒れている。だからちょっと怖い。
さっき隣のクラスの子が茶道部の流しで抹茶碗を洗いながら、その子が〝1〟であることを自慢して、2~7の番号の子たちを馬鹿にしていて雰囲気がすごく悪かったって話をしたばかりだ。巻き込まれたくないからさっさと部活に逃げて来たって言っていた。
その時は、なんでも自慢の種になるんだなって感心したけれど、今はその子に追いついてしまって何か因縁をつけられたら嫌だなって思いしか浮かんでこない。
苔の生えたブロック塀の水っぽい匂いを吸い込み、ことさらのろのろと歩く私の頭上で、チャイムが鳴った。
近くの公園に設置されたスピーカーから流れる、午後五時を知らせる聞きなれたチャイムだ。
私の先を歩く隣のクラスの女の子が突然倒れた。
吊っていた糸をプツンと切ったみたいに、前触れもなく、急に。
大丈夫⁈ と駆け寄って、その子の胸がピクリとも動いていないのを見て立ち尽くす。息をしていなかった。
どうしよう、死んじゃった。
そこで頭の中にパッと、あの手紙が浮かんだ。
人が死んじゃった。たぶん〝1〟だから死んじゃったんだ。
午後五時のチャイムが鳴ったら死んじゃった。
背中にザラザラした音の夕焼け小焼けの曲が聞こえた。
私は交番に走った。
校則で禁止されていてスマホは持っていなかったから。
でも持っていたとしても、この不思議な現象が始まった時から119には通じなかったから、結果は一緒だったかもしれない。
交番には私みたいに人が突然死んだところを見た人がいた。
おまわりさんに付き添われて帰ったら、私の帰りが遅くて不安になっていたらしいお母さんが待っていた。
お母さんとおまわりさんが話している。明日は学校を休んだほうがいいって。
それで詳しい話を聞きたいから、明日また、お母さんと一緒に午前十時に交番へ来てくださいって。
状況的に殺人ではないけれど、一連の騒動に関係していることに間違いはないから、一緒に警察署へ行って詳しい話をしましょうって。
そう言って、おまわりさんは帰っていった。
もう、疑いようがなかった。
『この世界の人間は、五月十三日から七日間で全員死亡します』
お父さんは帰ってこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます