第8話 〝7〟

(日曜日)



 朝はあんまり強くない。血圧が低いのだ。だから朝はいつもぼんやりしてる。そのうえ今日は寝不足だ。


 お母さんを恋しがって泣く桜ちゃんに付き合って、全く眠れない一晩を過ごしたからだ。


 私も家族を恋しがって一緒に泣いたのは内緒だ。誰にも言わないで墓場……は、たぶん誰も入れてくれないから、あの世まで持っていく。


 あんまり笑わないけど、おはようやおやすみをポソッと言って笑ってくれるお父さんが好きだった。

 なんで引きこもったのか知らないけど、でも私だけは部屋に入れてくれてたまに一緒にゲームをしてくれるお姉ちゃんが好きだった。

 最後まで私を愛して心配してくれたお母さんが大好きだった。


 おむつを替えたり、持ってきた桜ちゃんのお気に入りのおもちゃで遊んだり。うちにあった絵本を読んであげたりして案外忙しくて気がまぎれるお昼を桜ちゃんと過ごして、夕方になった。


 お母さんの料理の中で一番好きだった卵焼きを食べた。時間が経ってもおいしいのは、それがお弁当用だからだ。ちゃんと冷蔵庫に入れておいたから、傷んでもいなかった。大丈夫。


 でももし腐っていても、私は食べたと思う。

 だって最期だから。


 遠足、運動会、ピクニック、なんでもない日にねだって焼いてもらった卵焼き。

 お父さんとお母さんと、小さい頃はお姉ちゃんと、家族一緒に食べた思い出の全部が頭の中に浮かんでくる。


 おいしかった。甘かった。でも、悲しかった。


 お弁当を食べながらそういう思い出を一緒に振り返ってくれる人がいないのが、たまらなくさみしかった。


 桜ちゃんがいるけど、昨日初めて会った赤ちゃんとは思い出を共有できないし、そのために一緒にいるわけじゃない。


 もうちょっと早く出会えていたら、思い出を作ることもできたのになって思いながら、桜ちゃんのお母さんの手紙に従ってミルクを飲ませてげっぷをさせて、ゆらゆら揺らしながら鼻をすする。


 二人でちょっと早い夕飯を終えたら、もうすぐ五時だった。


 桜ちゃんはすーすー寝息を立てている。

 それを聞きながら、私はリビングのソファに寝転んで目を閉じた。


 真っ暗になった。

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