第6話 〝5〟

(金曜日)


 お母さんは目を真っ赤にして、朝の十時ちょっと前に家を出た。一緒に行こうとしたら止められた。


 危ないから戸締りをしっかりして家にいなさい。と言われた。

 誰かがピンポンしても絶対に開けちゃだめよ、と。


 私は何が危ないのかわからなくて首を傾げたけれど、お母さんが真剣だったのでうなずいた。


 電動自転車を飛ばして行ったお母さんは、しばらくして両手に一杯の買い物袋を提げて帰ってきた。そしてもう一度出て行った。それを何回か繰り返して、ようやくお茶を飲んでほっと息をした。


 出かける時のお母さんの格好が、いつも通り日焼けを気にしてUVカットのフェイスマスクとサンバイザーとサングラスで強盗みたいな格好をしていたのに少し笑った。

 日光アレルギーのお母さんは、私が笑ったのを見て笑った。


 「今日死ぬってわかってても、今、日焼けしてかゆくなるのは嫌なのよ」


 その言葉に、私は笑いながら泣いた。


 それからはお母さんは一心不乱に料理を作っている。

 私の好物ばかりだった。


 例の時間の三十分前、料理を作り終えたお母さんはお風呂に入って、髪をセットして、きちんとお化粧をして、新品の白いワンピースを着てベッドに横になった。


 「ちゃんと食べなさいよ。それから、大好きよ」


 そう言って、お母さんは目を閉じた。


 十秒か、二十秒か、遠くで五時のチャイムが聞こえた。すぐに胸が動かなくなった。


 「私も」と言った私の言葉は、お母さんにちゃんと届いただろうか。


 泣きながらお母さんの料理を食べた。

 独りになってしまった。

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