第4話 デウス・エクス・マキナはいるかもしれない

倒れた女、洗濯機に隠れる女。人を迫りたてさす様な洗濯機のアラート。


そんなのを尻目に、湯浅に対して暴行を続ける西尾。


「君は勘違いを何かしてる!私はオナニーをしようとしていただけだ!」


「何訳わかんねぇこと言ってんだ!オナニーだぁ?ざけてんじゃねぇぞ!」



いつ終わるのか、この混沌は。

大丈夫、読み手の方。もう終わる頃である。


「おい!何をしてるんだ、お前ら!」













塚本つかもと史孝のぶたか巡査はたまたま巡回中であった。


彼は事件で活躍することを期待していた。

しかし、存外にこの街は平和で、犯罪者はなかなか現れない。

時たま、無銭飲食者が現れるばかりである。


そんな状況に今日も塚本巡査は溜息を吐きながら巡回に出る。



そうしていつもの道を回っていると、異様に喚きつつ飛んでいったドバトを見かけた。


別にハトなんてのは珍しくないのだが、この時の塚本巡査はそれに少し興味を惹かれ、先のドバトが飛んできた方、いつもは滅多に通らない脇道にそれて順路を変えてみると、少し冒険に出た様な気がして、お気に入りの映画であるヒッチコック監督の「サイコ」のBGMを口ずさみ、自転車をとばす。




そんな折、急いでかけてきた、いや逃げてきたような男とあった。


「あ、あんた、警察だよな。」


「はい。どうかされましたか?」


「このすぐ近くのコインランドリーで乱闘騒ぎやってんだよ!早く行ってくれ!あのままじゃ、相手死んじまうよ!」


「わ、分かりました!」



かくして現場である山本コインランドリーに急行した塚本巡査。



彼の今日の功績は言うまでもないが、一応列挙しておく。


乱闘騒ぎの仲裁、コンビニ強盗の西尾の逮捕、スリの志田の逮捕、所轄がマークしていた性犯罪者の湯浅の逮捕、自殺しようとしていた奈々谷を介抱し、一人の人命を救った。




翌日の夕刊で彼はヒーローになった。

その時の写真に写る塚本巡査の顔はまさしく煌めいてるような笑顔であった。


誰かの厄日は、誰かの吉日である。

人生とはそういうものだ。

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コインランドリーのための不協和音五重奏 弟夕 写行 @1Duchamp1

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