配慮ばかりではつまらないが、しかし、それでも……

配慮、配慮と世間が言うから、本音を口に出せない世の中になってきていて、それゆえに楽しくないなんてこともあると思う。けれども逆に、まったく配慮のない人間が、まったく悪意なく、友達として振舞っていたらどうか。

実はこういう経験は、ほとんどの人が味わっているように思う。
友達と言う一人の人物ではなくて、社会と言うか意識と言うかもっと大きなものから。
人間として生まれたがゆえに仕方なく持ち合わせてしまった同一帰属性と言うのがその正体のように思う。

本作を読んだとき私の中で想起されたのは、自分が幸せな気持ちでいるときに見た、無関係の人間の身に起こった事故事件災害だった。
ニュースもSNSも悪者ではないし悪意はない。ただ事実を伝えているだけだ。でも、せっかく幸せな気持ちでいるのに、どうして邪魔をしてくるんだろうと言う気持ちにもなる。私の幸せを踏みにじられた気分になる。そりゃあ、被害妄想なのは、わかっているのだけれど。

本作と自分の身に起きて来たことを照らし合わせたとき、「ああ、世間は私個人に対してはとてつもなく配慮がないのだなあ」と感じた。すなわち、抱えていたモヤモヤに一つの回答が示されたのだ。
本作自体は明るい物語ではないのだけれど、暗がりで過ごしている私の暗闇の輪郭を明確にしてくれる物語ではあった。きっと他の誰かの回答にもなり得る作品だと思う。