第3話 告白の夜 後編

僕とベルタは仮カップル受付に到着した。その後ろにはリアラとベルハルトが並んでいる。作戦の第一段階は成功した。


仮カップル登録をすると、イベント最後に中央ステージ上に上がり素顔で相手に告白しなくてはならない。告白するカップルを観客が冷やかし楽しむための趣向だが、これが盛り上がる。これを見るために高額の見物料を払ってアリーナ席に座りたい人が多数いるのだ。その高額な見物料のおかげで、登録カップルは豪華な王宮料理を食べられるという仕掛けになっている。


受付を終えた僕たちは係の人に席に案内された。すぐ後ろにいたリアラたちは、離れた席に案内されたようだ。ずっとこちらを凝視しているリアラの視線が痛い。僕はそれを紛らわせるようにベルタに話しかけた。


「告白の後の素顔での偽キスだけど、皆に注目される中央ステージ上で本当にバレないかな?」


「大丈夫です。そのために練習したんですから。私からキスして恥らってすぐ引く感じにします。今度は失敗しません。ですから練習通り目をつぶって動かずに待っていてくださいね。終わったら『目を開けて』って言いますから」


「わかった。任せる」


「はい」


少し肩の力が抜けた僕は、運ばれて来た王宮料理とベルタとの会話を楽しんだ。


王宮料理を堪能したあと、ついにクライマックス『告白の夜』が始まった。まずはステージ上後方に仮面をつけたままの仮カップルが集まる。そして司会により1組ずつ舞台中央に呼ばれて告白を行う。食事目当てで仮カップルになった人たち、とても熱々な本気の人たち、煌く出会いを求めに来た人たちなど、毎年10以上のカップルをさらし者にできる『告白の夜』は秋の収穫祭の最大のお楽しみであると言われている。


「では、今年も熱々のカップルに登場していただきましょう!」


司会の言葉でステージに上がる今年のカップル10組。


「では、早速始めます!まずは登録順1番目、仮カップルの7番と41番中央へ!!」


クジで引かれた7番と41番が司会に呼ばれて中央に出る。


「では、仮面を取ってください!!」


仮面を取った瞬間。大騒ぎになるアリーナの酔っ払い達。


「出ました毎度おなじみ雑貨屋の看板娘クラリーちゃん!!」

「今年もまってた~激しいのをたのむぜー」

「いや?今年こそ告白成功があるかもよ」

「ないない!クラリーちゃんだぜ?あるわけ無いよ」

「相手の兄ちゃ~ん、がんばれ~」


「みなさんご静粛に!!」


司会が大声を張り上げて観衆をなだめる。


「では、41番さんに宣言してもらいます。3・2・1どうぞ!!」


「まてーい!!!」


突然大声を張り上げステージに駆け上がるマッチョな男。


「でた!シスコン!!」

「毎度毎度、飽きんなあ」

「クラリーちゃんやってやれ!」


酔っ払い達は、また大騒ぎ。


「静かにしてくださーい」


司会がまた観衆をなだめると同時に実況を始める。


「おおっと、乱入者だ恋敵かそれとも恋路を邪魔する親族か!?」


司会者は慣れたもので毎年言ってる口上をすらすら述べる。乱入者はおれに合わせて舞台上で色々とポージングを決めた。


「えっと・・・私はどうしたら・・・」


祭りの評判を聞いてこの村にやってきた初参加の若者は困惑している。司会者が『ツツッ』と近づき若者に耳打ちをした。


『大丈夫ですよ。演出ですから気にしないで告白しちゃってください』


『わかりました』


頷いた若者はクラリーに向き直ると告白をした。


「クラリーさん!僕と真剣に交際してください!!お願いします!!」


若者はクラリーの肩を引き寄せキスを待つ。でも、その瞬間に乱入者がクラリーと若者を引き離し、その間に体をねじ込む。


「おおっと。我が妹から離れてもらおうか兄ちゃん」


そしてクラリーの方を向くと父親のように語り掛けた。


「クラリーだいじょうぶか?何もされてないか?」


若者は唖然とし、乱入者の背中を見つめるしかない。そして、ワナワナと震えだしたクラリーが叫ぶ。


「なんともないわぁ!!!」


ガツン!


「ぐほうっ!!」


クラリーは乱入者の腹に強烈な一撃をくらわす。メガトン級のアッパーを受け、空のかなたに飛んで行く乱入者。夜空に光る光跡を残して乱入者は星になった。


「そうだ!それだよ!!俺達が見たかったのは!」


にわかに観客が騒がしくなる。


「静かに!!まだ返答をしていませんよ!7番さんどうしますか?OKならキスをNGならビンタをしてください!」


司会者の言葉に頷き若者に近づくクラリーが、キスしようと若者の顔に手をかけたその時……


「や……やめてくれ!バ、化け物!!」


手を振り払い後ろに飛び下がる若者。クラリーは『ふう』と小さく溜息をつく。


「今年もダメだったか……」


バシンッ


クラリーは若者を軽くビンタした。実は軽くはない重いビンタを受けた若者は逃げるようにステージを駆け下りていった。


「おおっと~残念!!告白実らず!!!」


司会者が告白の失敗を観客に告げる。


「はは……去年はステージから転げ落ちただけだったのにエスカレートしてないか?」


「殴られて星になるって、冗談みたいですけど……」


僕とベルタはボソボソと話す。


「クラリーのお兄さんはああみえて飛空魔法の達人らしいから」


「そうですよね?殴られた人はあんなに飛びませんもの。そこまでして妹を側に置きたかったのかしら?」


兄をぶっ飛ばしたその妹クラリーは、控えの席に1人座り鬼の形相で他の参加者を睨んでいる。まるで『全員失敗しろ』と言わんばかりに。


ギロッ


目が合った。クラリーさん目が血走っている。


(綺麗な人だから5割増しで怖く感じるな)


偽カップルであると自覚のある僕は、後ろめたさからサッと目を逸らせた。ただ壇上に残る本気のカップル達は熱々で、クラリーさんの眼光に射抜かれながらも、次々と告白を成功させていく。観客もその様子を酒の肴にして楽しんでいる。


「さあ、残り2組!次は5番と33番!舞台中央へ!」


ついに僕たちが呼ばれた。ベルタと目配せして前に出る。


「おや?序盤1番さんと痴話喧嘩してた33番さんが5番さんを選びました!これはどうなるか楽しみです!」


「本当だ!痴話喧嘩するほど仲良い1番を捨てちゃったよ?!」

「やべえぞ33番!振られろー」

「意地張って喧嘩してても、最後はくっつくと思ってたのに!」


なんかブーイングが巻き起こってる。やばい、これで偽カップルなんてバレたら殺される。チラリとリアラを見ればなんか『当然だ』とばかりに両手を腰に当てて胸を張っている。


「さあ、33番さん完全アウェーですが!頑張ってもらいましょう!告白どうぞ!」


(あんたが煽ったからそうなったんだろ!)


僕は司会者に心で悪態をついてから、ベルタと向き合った。お互い仮面を外す。ベルタは気合いの入った表情で小さく『私に任せて』と言った。僕はその言葉に勇気をもらい告白する。


「なんか周りが騒がしいけど気にせず、恋人になってください!」


僕は打ち合わせ通り、目を瞑って下を向いた。その次の瞬間、グッと力強く顔が固定される。


はムぅ


そして僕の唇に柔らかいものが触れた。周りがアウェーのこの状況だ。ベルタのことだ、気を使って本当にキスをしてくれたのだろう。本気で『申し訳ない』と思う。


「おおっとー!何と告白成功だ!この雰囲気に負けず5番さん33番さんを受け入れたー!」


「ええっ!マジか!5番の穣ちゃん度胸あるぅ!」


「?!ベルタちゃんそんな奴やめて!俺ファンだったのに!」


「アルスおま覚悟しろよ!あの1番リアラだろ!リアラを泣かせる奴は俺が許さん!」


「なっ!嘘ッ!アルス離れて!」


観客の声に混じってリアラの父ちゃんである、怒ったベンおじさんと焦ったリアラの声も聞こえた。まあ、そうだろう僕もこうなるとは思わなかったしね。ただ、これで作戦行動は終了だ。


 後は『ベルハルトがボコられるのを見るだけ』と思ってたが、なんかベルタの様子がおかしい。キスが終わらない。


クボッ!ネチョ、チュウゥッ!


 いつの間にか口の中でベルタの舌が艶めかしく動く。


はむっ!はぁっはむっ!


 目を開けると息づかい荒く一心不乱に僕とのキスを続けるベルタがいる。とてつもない力で顔を押さえ込まれて僕は逃げる事が出来ない。


(ちょっと待って!やり過ぎだよ!)


 僕はベルタを両手で押して引き離そうとしたがびくともしない。余りのキスの濃厚さに冷やかしていた観客も引いてしまった。


「あ、あのぅ?お二人さん?お楽しみの所を申し訳ありませんが、イベントの途中ですのでそろそろ終わって頂けますか?」


ぷはぁっ!


 司会者に頼まれてようやくキスをやめたベルタ。誇らしげに周りを見回しリアラに向かって親指を立てる。僕は恥ずかしさから顔を両手で覆って下を向いた。


「はい、では次がありますので、下がって下さいね?」


 パラパラと聞こえる拍手の中、司会者にうながされ、控え席に帰ろうとしたその時、僕の体がふわっと宙に浮いた。


「えっ?!ちょっと!」


 僕はベルタに軽々とお姫様抱っこされたのだ。それと同時に引いていた客席が再び盛り上がる。


「よっ!ベルタちゃん男前!」

「そうか!ベルタちゃんがアルスに惚れてたのか!」

「アルス!強い女性に好かれるのはお前の天運だ!」


 驚いてベルタの顔を見上げる僕。するとベルタは、僕のオデコにキスをしてこう言った。


「私は小さい頃からアルスが好きです。そしてリアラさんからアルスを奪うため秘密のトレーニングを続けて来ました。そして今回の絶好のチャンスに賭け、みんなの前で公式にカップルと認められました。アルス貴方を私は離さない。敵を排除して守っていきますから覚悟して下さいね」


 僕はベルタの綺麗な瞳の奥に怖さを感じた。天敵を前にした気分と言えばいいのか?『逃げられない』と感じる漠然とした恐怖?ベルタは知的で美人で申し分ない女性だが、このまま交際OKすると大変な事になるのではと僕の心の中の警報が鳴っている。


「うん。でもまずは友達から……」


 僕がありきたりの誤魔化しフレーズを言った瞬間、引きつけられてガッチリとホールドされる僕の体。


「公的にカップル認定されたのですよ?ココは最低でも恋人からでしょう?」


 威圧感満載の目。僕の口が勝手に動く。


「は、はい。じゃあ恋人から……」


「はい。言質取りました。よろしくお願いしますね」


 こうして僕とベルタは恋人になった。いや、なることを強制された……。


 その後のイベントは案の定、隙をみてリアラにキスしたベルハルトが舞台上で半殺しにされ、そこで中止になった。

 

 リアラとベルタはその後、話し合いをしたらしい。ただその後、リアラが僕を見かけても距離を取るようになる。何げにベルタが勝ったのだろうと想像はついた。ただ、ベルタに確認してもはぐらかすから、実際に何があったのか真相は不明だ。


 ベルタはとても優しいし、綺麗だし、色々僕を助けてくれるし自慢の彼女だといえる。好かれて恋人になれた僕は幸せだと思う。


 でも、最近色々と怒られることが増えて来た……彼女が僕に腹を立てて、叩かれることもある。決まってその後は優しく接してくれるのだけれど、力が強いから痣が残ったりする。


 僕自身、今は幸せだけど、それが、いつまで続くのか? 続かないのか? 実際、この選択が正解だったのか? そう考えるのはどうなのか? これは誰にもわからない。

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告白の夜 法行与多 @Noriyukiyoda1212

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