第2話 告白の夜 前編
―次の日―
中央広場に設置された『告白の夜』会場。煌びやかな夜間照明に照らされた本番当日の会場にリアラが現れたようだ。仮面を付け番号で呼び合うのが決まりなので顔が見えず確信は無いが、あの黒髪で筋肉質の1番はたぶんリアラだろう。
その1番が僕に向かって一直線に向かってくる。そして僕と話していた何人かの女性を声や態度で威嚇し排除した。肩で風を切りガニ股で歩く姿はまるでチンピラ。僕は慣れて何とも思わないが普通は怖いだろう。男性諸君は萎縮して全く近付かない。そのままリアラは僕の傍まで来ると、何故か他所行きの声で僕に話しかけて来た。
「あら、33番さんごきげんよう。すごくなじみの方に似ておられるのですが人違いかしら?」
(いきなり、ジャブかましてきたなコイツ)
「いえ、人違いだと思いますよ。1番さんこそ僕の知っている人に似ているのですが、あの人はこんなイベントには向かない人ですから人違いですよねえ?」
「いーえいえ、33番さんの知っている人はおモテになられますからこういう所には非常に向く人ですよ。早くしないと誰かに取られるかも知れませんよ~」
(なんだそのアピールは。僕は興味ないぞ)
「いーやいや、僕の知っている人は暴力的で人をこき使うような人ですからやっぱり違いますねえ」
ギィッ!!
リアラは音が聞こえるくらいに歯を食いしばった。イラついてる証拠だ。しかし、何とか我慢したらしく顔を作って僕に反撃する。
「あらぁ・・・そういえば私のなじみの方も泣き虫で弱虫で下僕のような男ですからこんな所にはいませんわ~」
ピキッ!
一番言われたくないことを公衆の面前で言われた僕は、こめかみに青スジを立てて言い返す。
「なんだよ!!」
「なによ!!」
ピピィーーー!!
「1番と33番! 警告1!!」
笛を鳴らしたジャッジマンが黄色いカードを出しながら走ってきた。広場の周りからは、笑い声と共にブーイングが上がる。
「これからが見せ場なのに止めんなよジャッジマン」
「そうだ、開始早々痴話喧嘩するなんて前代未聞だぞ? 面白くなりそうだったのに」
「1番と33番覚えたぞ~。これは宣言が楽しみだ」
などとはやし立てる、すでに酔っ払って出来上がっている観客達。
「いいですか? 喧嘩するなら最後にしてください。これはイベントなんですから趣旨にしたがって、まずはいろんな人と話して親睦を深めてくださいね」
「はい。すいません」
「はぁい」
僕は素直に謝ったが、リアラは不服そうだ。そのジャッジマンが離れたすぐ後に、金髪の男性74番が近づいてきた。かなり離れて金髪の女性5番が続いている。
(74番はもちろんベルハルトだな? 後ろの5番がベルタか?ええと、右耳に黄色、左耳に赤の耳飾り……ベルタだな)
ベルハルトは僕の前で手を上げ挨拶すると、そのままリアラに近づいて話しかける。
「やっと見つけた。1番さん俺の事わかるか?」
リアラは仮面越しにもわかる困惑した様子でベルハルトを見ている。そしてリアラは何かに気づいた様子で74番ベルハルトに小声で話しかけた。
「アンタはベルハルトよね? そのコメカミの傷でわかるわよ。私がつけた傷だもの」
さすがリアラ。名前を聞いてはいけないルールを速攻で破ってる。
「あのう……お話いいですか?」
5番ベルタが僕の下にやって来た。リアラは即反応して、またチンピラのように『なめんじゃねえぞ』『近づくなコラ』など発声して5番ベルタを威嚇している。しかし、ベルタは意に介さず澄まし顔でソッポを向いた。僕はベルタをかばってリアラに言い返す。
「1番さん、ちょっと邪魔しないでくれる? 僕はこの子と話しがしてみたいから」
「なによ! こんな奴と話さないで、私と話しなさい!」
ピピィッ!
無茶苦茶である。案の定ジャッジマンの笛が鳴り、リアラは『次問題を起こしたら即退場』と警告を受けた。そんなリアラを横目に見ながらベルタが俺を食事に誘う。
「私と仮カップルになって食事を楽しみませんか?」
ちょっと予定より速いし、かなり強引な展開ではあるが、確かにリアラの対抗心を目一杯つかうには良いかもしれない。
【この『告白の夜』のイベントでは仮カップルになった者だけ食事スペースに通される。ただ食事スペースに入ると告白イベントからは、もう逃げられない。『本気で恋人は欲しいけど、人前でさらし者になりたくない』なんてカップルは、ここで食事は取らず舞台を降りて屋台へ歩いて行く。この王宮料理の食事が公開告白の分岐点になっているのだ】
「なっ!やめ……グゥッ」
リアラは激昂しかけたが、退場になるので必死に押さえ込んでいる。
「うん、王宮料理をタダで楽しめる滅多にないチャンスだからね、仮カップルの登録をしにいこうか5番さん」
「はい!よろしくお願いします!」
僕とベルタは仮カップル登録受付に向かった。告白の順番は受付順なので作戦を成功させるには、僕達の後にリアラ達が受付する必要がある。この後すぐリアラがついてくれば作戦通りに進むし、来なければそこで終わりだ。
「ちょっと!待ちなさい!どこすればいいのよ!アル……33番が行っちゃう!」
「1番さん! あいつらを追いかけるなら俺と仮カップルになってくれ! 仮カップルでないと食事スペースに入れないからさ、頼むよ1番さん」
リアラに右手を差し出して頭を下げるベルハルト。リアラは一瞬、迷ったがベルハルトの手を掴むと走り出す。
「背に腹はかえられないわ。行くわよ74番!」
ンフフッ
リアラに引っ張られながら、思わず笑みが漏れるベルハルト。こうして、僕たちの第一作戦は上手くいき、次の段階に進んだのだった。
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