あとがき

 「娘の「肩たたき券」を転売したバカ親父のせいで、大冒険と大恋愛をする羽目に」は、主人公「立花 幸」の成長と克服がテーマの物語です。

 幸は当初、自分が父親にプレゼントした肩たたき券を、中年男性に転売されるという異様な不幸からスタートします。

 この時の主人公は、自分の不幸を普遍的なものであり、自力では変えることが出来ない運命として、全てを受け入れてしまいます。

 中年の男が彼女に襲いかかるとき、彼女は不幸な時間を短くしようと、性行為を受け入れてしまうのですから。

 普通なら、このまま彼女は男性を受け入れて終わりだったかもしれません。それでも、ラジワット・ハイヤーと言う男性が彼女を間一髪で救い出し、異世界へと連れて行くことで、大冒険と大恋愛が始まります。

 この「ラジワット・ハイヤー」という存在は、主人公のように諦めて欲しくないと言う願いの化身です。

 変化を求めれば変わる事が出来る、どうか諦めないで欲しいという願い。

 全ての女性に対してそう思うことから、強いメッセージとして物語のテーマとしています。

 それ故に、最初の部分が、かわいそうで辛かったとのご意見も頂きました。

 

 このラジワットと言う男性は、こちらの世界で言うところのイラク以西のアラブ系民族をイメージしています。

 「ラジワット・ハイヤー」は、前作の「自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した」に出てくる帝国宰相「ルガ・ハイヤー」の親類縁者で、同じハイヤー公爵家の血筋です。

 この物語は、前作よりも一世代前の異世界を舞台としています。

 お気付きの方もいるかもしれませんが、随所に関係者が出てきます。

 ドットス王国の王子であったマッシュも、後のドットス国王ですし、王妃サナリアも、前作に出てくる王女マキュウェルの母親です。

 マキュウェルは、非常にお転婆で快活な王女ですが、両親である国王夫妻が、娘を危険な冒険者として旅を許可している背景には、自分たちも結婚前にパーティを組んで旅をしていたことに所以します。

 この旅の途中に、幸やラジワットと出会い、合流してロンデンベイルまで一緒に旅をする事になりました。

 この時、一緒に旅をしていた未来人のキャサリン・コーネリーは、前作のヒロイン、美鈴 玲子の同僚であり、GF職員です。

 このGF(ガバメント&ファイター、兼グランドファーザー)が、そのまま前作の主人公となります。

 同じくパーティを組んでいたワイアット・メイ・ロームボルドは、王妃サナリアへの片思いを断ち切るべく、他のメンバーよりも早くに結婚し子供をもうけます。

 どちらの物語にも出て来てはいませんが、息子が二人いて、マキュウェルやエレーナよりも大分年上です。

 これも裏設定ですが、長男は前作の五国同盟の後に、次期ロームボルド連隊の連隊長となります。

 この五国同盟により、北のタタリア帝国との軍事バランスが均衡を保ち、長い平和が維持できるのです。

 参考までに、異世界での軍隊は、基本的に騎兵、弓兵、歩兵に分類され、中世ヨーロッパの軍隊のようですが、階級構成は現在のこの世界と同じ構成になっており、その部分だけは進化しています。

 ですので、中世を扱う作品によく出て来る「騎士団」などは部隊編成としては出て来ず、代わりに、近代軍と同じ師団・旅団制で描いています。

 唯一「軍師」という役職が出てきますが、これは「参謀」を言い換えただけで、ほぼ同じです。


 後日談にはなりますが、本作の皇帝エリル二世は、主人公の幸に恋をしており、彼女がラジワットと結婚した事で、失恋状態になります。

 エリルはその後、側室を複数娶るも、幸の事が忘れられず、なかなか世継ぎが生まれません。

 これも本編には出ていない裏設定にはなりますが、彼がもう少し大人になった頃、幸によく似た黒髪の東洋人と出会い、結婚します。

 この二人の間に生まれてくるのが、前作では39万の軍勢を率いて戦うことになる皇女エレーナです。

 彼女は、とても豊かな黒髪の少女という設定ですが、これはエリルの黒髪と、幸似の女性の黒髪から来ています。

 ハイヤー家のルガも、結婚が少し遅めで、子供に恵まれたのも遅かったため、皇帝エリルの娘よりも数年前に娘が生まれます。

 同じく黒髪であったこと、皇帝の血筋に近いこともあって、この子は幼い頃から皇女の影武者として、皇女エレーナと近しい存在となって行きます。

 これが、後にハイハープ公国の国王となった、アッガ・ウクルキの妻となるメルガ・ハイヤーです。


 前作の時には、このオルコ帝国が、現在の何処に存在しているかを描いていませんでしたが、本作では具体的にイラク・シリア・サウジアラビア・トルコ付近までの広大な地域と明かしました。

 これは、非常にデリケートな地域であったため、当初は敢えて不鮮明にしたという事情がありました。

 気候も大きく異なり、異世界での文明の中心は、現在の砂漠地帯に多い設定になっています。

 ちなみに世界最大の湖とされるカスピ海も、異世界には存在していません。

 タタリア山脈を越えた北方、と言うロンデンベイルは、地理的に見ると現在のカザフスタン~アゼルバイジャン付近になります。

 作中では、1980年代の幸が見慣れない文化圏だと感じたのも、当時旧ソ連邦であったこの付近の情報が、あまり日本に入っていなかったという事情があります。

 幸は、塔のの上にタマネギのような物が付いた建物を見て、中東やモスクワをイメージするシーンがありますが、これも、旧ソ連邦と文化圏が近いため、それを聞いたラジワットが笑っていたのは、その着眼が非常に正しいと感じた為です。


 異世界と表現されたこの世界は、前作では「エラーサイト」と呼ばれ、私たちが住むこの世界とは異なる2000年以上前に大分岐した平行世界と言う設定です。

 この大分岐という表現は、私のオリジナルですが、時間軸の考え方を説明するときによく使用します。

 時間とは、同時並行的に沢山の似通った時間が存在しており、本作でもありましたが、その平行時間軸に移動することで、死んだ人間が生きている世界線へと移動する事が出来ます。

 しかし、世界線を変革させるために、過去に戻って時間を変えるのではなく、異世界に行き事象を変化させることで、現世を変革させると言うのも私オリジナルの考え方です。

 前作では、こちらの世界を変革させるために異世界へ行きましたが、本作はその逆で、異世界の世界線を変えるために主人公が今の世界に戻って湾岸戦争を変化させると言う方式でした。

 この平行世界を「小分岐」としたとき、全く別の世界を構築してしまうほどの大規模な世界線分岐を「大分岐」と呼んでいます。

 この大分岐は、歴史上の大きな事象をトリガーとして引き起こる設定となっており、2000年前に大分岐が発生するほどの大事件があったことになっています。

 これが、現世とは別に、古代に核戦争が、という裏設定です。つまり、分岐したのは現在の私たちの方の世界、ということになります。

 私たちの世界とは、既に古代文明による核戦争か、それに近い兵器による大戦があった後の世界。

 今現在砂漠である地域は、本来肥沃な土地が広がっており、町も王国も多数存在していた、という裏設定でした。

 ですので、中東やアフリカの砂漠地帯にも、多くの国家と町が広がっていました。

 それらの王国が、互いに大規模な大量破壊兵器を使用しあい、元々文明のあった地域が砂漠化してしまったのが、私たちの世界であると。

 これは、一部で唱えられている説でもあり、核戦争はともかく、人類が進化して火を使ったことが、現在の砂漠が出来た原因ともされています。


 また、シリア・イラクに広がる内務省主導の新国家というのも、モデルが実在します。

 これは、名前を伏せてはいますが、一時期大変話題になったことからピンと来る人もいはずです。

 その「国」は、石油精製施設を次々と制圧し、資金源としていましたが・・・・冷静に考えれば、石油を押さえても、売買が出来るかと言われれば、テロリストには無理な話です。

 それ故に、この「国」には元々国家を形成していた官僚が多数居たと推測しています。つまり、元となった国家中枢が存在したと・・・・。

 タブーな話が多いため、ここは不鮮明のままにします。


 オルコ帝国の語原となったのは、作中にも出てきますが「オスマン・トルコ帝国」を縮めたものです。

 地域はトルコ帝国よりも広大ですが、更に広大で強大な国家がタタリア帝国です。

 これは古地図によく出てくる「タルタリア帝国」がモデルです。

 このタルタリア、都市伝説ではおなじみの国家ですが、実は普通に歴史にも出てきます。

 現在のタタール人がそれで、ロシア中央から東に存在した幻の帝国です。

 一説では、モンゴル帝国の別名とする人もいますが、作中では強大な騎馬民族として描いています。

 

 このような、ドラゴンやユニコーン(ケブカサイ)、巨人などが生息していて、文明が今ほど発達していない魔法が使える異世界と言うテーマが、どうしてライトノベルやゲームの世界観として多く出てくるのか、と言うのも、この異世界が現世の人々の意識に影響を与えているため、ともしています。

(だから、ラノベは異世界大好きなんですね)

 ちなみに、タルタリアは水路を使って電気を送っていた、という噂がありますが、空中都市で有名な南米ペルーのマチュピチュ遺跡にも、あれだけ高地にもかかわらず水路があり、懇々と水が流れ続けています。

 この水路、とんでもなく高度な技術で作られており、一種のオーパーツとして扱われています。

 また、この水路に、どうして水源も無いのに水があるのかも不明で、水源を調査するには、遺跡を解体しなけばならず、正体不明のままです。

 ピラミッドもそうですし、古代ローマのコンクリートもそうですが、現代ではどのように作られたか不明な遺物も数多く存在するのも事実であり、これらが大分岐前までは、普通に電気として使用されてきた、というのが、ランカース村でもあった「リチータ祭り」(通電祭)です。

 異世界では、大分岐がため、太古の技術は一部が継承され続け、違和感なく技術として利用されています。

 逆にこれが、機械文明の発達を遅らせることとなり、現在では異世界の方が旧式となってしまったのです。

 また、一部魔法のような物も使えてしまうことから、火薬が生まれず銃が発明されませんでした。

 それ故に、幸が練馬のアパートから持ってきてしまったチンピラの拳銃を、キャサリンは危険視していたのです。



 最後に、私はこれまで様々な人の不幸を見てきました。

 それ故に、できるだけ人は幸せになって欲しいと願うのです。

 表現力が未熟で伝わらないかもしれませんが、私の叫びのようなもので、物語の核心部分です。


 ご愛読、ありがとうございました。

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娘の「肩たたき券」を転売したバカ親父のせいで、大冒険と大恋愛をする羽目に 独立国家の作り方 @wasoo

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