言ったらそれはもう、

たけちー

……秘密じゃないよね。

「はぁ~……」

 大学構内の学生食堂・併設カフェにて、たそがれている女が一人。腰まである長い黒髪を白いテーブルと自分の背に遊ばせながら、顎を手に乗せて、窓から見える春の空を眺めている。

「大きい溜息」

 女の目の前には、もう一人の女。こちらは茶髪のボブで、やや目つきが鋭い。しかし視線は文庫本から外れることなく、指は淡々とページを繰る。

「……はぁ~……」

 黒髪の女はがっくりと首と肩を落としつつ、再度溜息をついた。茶髪ボブのほうはちらと黒髪のほうを見て、しかし文庫本の文章を追う作業に戻った。

「……言いたい、とは思うんだよなあ」

「オチが見えてるから言わなくていいよ」

「でもさ、やっぱりほらさ、脈がないってわかっているとさ……」

「結論のわかっている話を何度もしたくないんだよ。もういいよ」

 恋愛相談らしきものを始めた黒髪の女に、茶髪ボブはにべもない。だが、全く先を聞きたくもない、という拒否感が声にない。黒髪の女はそれをわかっているので、何も変わりない調子で続けた。

「あと、別に恋人になりたいかって言われると、そうでもなくて」

「五回目くらいかな、この流れ」

「でもなんかこう、相手のこと、『友達』か、っていうと、もう、そうじゃなくて」

「知ってる。多分六回くらい聞いた」

「私は相手の『何』になりたいんだろうとは思うんだけど、それにしては『好き』が勝ちすぎている……」

 それは妙に温度の高いガチ勢のオタクの様態では……という言葉が茶髪ボブの脳内を掠めたが、一応黒髪が真剣に悩んでいるのを茶化すのもどうかと思い、口にしなかった。

「……理生りおがどうするのがいいとかは、私には言えない。理生が考えて選んで行動しないといけないから。私が言えるのは、理生がどんな選択をしても、私と理生は一応友達のままだよってことかな。あなたが笑ってても、泣いてても、一応隣にいるよ」

「一応って言葉、なんか厳密でいいね」

「どうも」

 黒髪――本田理生の片思いは、かれこれ半年以上続いている。茶髪ボブは、相手方の男の顔も名前も知っている。理生経由で知り合い、理生とボブと男と三人で、たまにご飯を一緒に食べたりする。

 茶髪ボブは三人がなんとなくお互いに言っていない、言わない感情があるのを理解している。理生は当然、男への好意だ。そして男のほうも、理生に「言いたいけど言えない」感情があるのを、ボブは察している。実際のところは何とも言えないが、目で見る限りは、恋愛かそうでないかはおいておいても、そこはかとなく大事な存在として、彼は理生を見ている。

 そしてボブ的には、「お互いこう思っているんじゃないかな」という推測を、理生と男へ漏らしたことは一度もない。




「ああ~……言いたいなあ……」

 文庫本から目をそらさずに、しかし心の中ではヘドバンのごとく首を縦に振った茶髪ボブだった。

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言ったらそれはもう、 たけちー @takechiH

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