見ないふりをしたかった。一緒にいたかったから。

鏡に現れた、左胸の傷。
見ないふりをしたいのに、どうしたって気になって仕方なくて、そして見せつけるかのようにあちこちに鏡があって。

気付かないふりをしたかった。
隣にいることが叶わない人と一緒にいるには、傷を見ないようにするしかない。
なのに、一緒に過ごせば過ごすほど、どろりと傷は広がっていく…

「自分で気づいてきちんと認めてあげないと、その傷はいつまで経っても治らないままです」

そう言ってくれた人の胸には、傷があった。

自分を救えるのは、自分しかいない。
鏡はそれを教えるかのように、泣いている彼女を見つめていた。

そうして彼女は、人知れず左胸を撫でるのだろう。