第2話 剣の秘密

 剣を抜いただけで王様になれるなど、何か変だ。


 必ず“秘密”がある。


 男はそう考え、兵士からそれを聞き出そうと話を続けた。



「なあ、今の王様がこの剣を抜いたんだろ? どうやって抜いたんだ?」



「知らないな。一切、記録が残ってないんだ」



「記録に残っていなくても、誰か覚えているだろう?」



「さあ。何しろ、今の王様が剣を抜いたのって、もう50年は昔だからな~。死んだ爺さんが今の俺みたいに見張りに立ってたんだけど」



「……ん? 50年前?」



 随分と昔であるし、目撃者もいないということだ。


 ただ、“剣を抜いて王様になった”という事だけが事実として残っている。


 やはり何かかがおかしいと男は感じた。



「そんなに気になるなら、王様に会ってみるかい? 城に行けば、会えると思うよ。剣を抜いた当時のままの姿だし、抜くための参考になるかもよ」



「当時、だと? 今の王様が剣を抜いたのって50年前だよな!? 当時のままの姿だと!?」



 特大の情報が飛び出した。


 50年前に剣を抜き、そのままの姿で王様をやっているのだと言う。


 いくらなんでも不気味に過ぎる。



「ああ、信じられないのも無理ないさ。爺さんから聞いたんだが、この国の王様は剣に宿る精霊の祝福を受け、不老不死の力を授かるんだ。だから、次に誰かが剣が抜くまで、ずっと体を保っていられるんだ」



「そうなのか! それはすごい!」



 男は興奮した。おとぎ話の中でしか聞いたことのない魔法的な力。それが目の前の剣を抜きさえすれば、手に入ると聞かされた。


 やはりますます挑戦したくなってきた。



「それだけじゃないぞ。即位式には力を授ける精霊がやって来て、なんでも1つだけ願い事を叶えてくれるんだそうだ」



「へぇ~、そうなんだ。なら、今の王様はどんな願い事を?」



「ん~。爺さんから聞いた話だと、天から降りてきた二人の精霊に伴われて、以前の王様と一緒にお城の隅にある儀式の間に入っていったんだとさ」



「まあ、王様になるんだし、儀式はいるわな。んで、どんな儀式だ? 頼んだ願い事は?」



 食い入るように尋ねる男であったが、兵士は勿体ぶるように口を閉じ、右手の人差し指を立てて、口に当てた。



「それは“秘密”です」



「なんじゃそりゃ!?」



「と言うのは冗談で、そこは知らないんだ」



「そうなのか?」



「なにしろ、儀式の間に入ったのは新旧の王様と、二人の精霊だけ。んで、出てきたのが、今の王様だけ。前の王様と精霊は、煙のように消えたんだとさ」



「なるほど。それなら、王様に聞く以外に、それを知る術はないな」



 兵士が儀式について知らない理由に、男は納得した。



「でもさ~。王様、儀式については知らぬ存ぜぬの一点張り。『知りたければ剣を抜け』だとさ」



「剣を抜けば、次の王様が決まる。今の王様は剣を抜いて欲しい……、のか?」



 やはり奇妙だ。何かまだ深淵なる“秘密”があるに違いない。


 ふと見つめた看板、そこに奇妙な走り書きを見つけた。


 字はかすれていたが、デカデカと書かれた“この岩に刺さった剣を抜いた者を次の王様とする!”の横に、“さっさと抜きやがれ!”と書かれていた。



「なあ、兵士さん、この看板って、誰が立てたんだい?」



「王様に決まっているじゃないか。ここいらは“聖域”に指定されていて、王様以外に勝手にいじってはいけない事になっているんだ。それこそ、落ち葉拾いすら、王様の許可がいる」



「じゃあ、この走り書きは……」



 やはりそうだ。


 今の王様は王様を辞めたがっている。


 理由は分からないが、玉座を退きたい雰囲気が、看板からにじみ出ていた。



(やはり、何か“秘密”がある。それを知る術は、王様になるしかない、か)



 気にはなるが、今の自分には手の届かない領域にある。


 男は腕を組みながら、岩に刺さった剣について考察を続けた。

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