第4話 小賢しい男の機転

 翌日、剣の刺さった岩の横には、櫓が組み上がっていた。



「兄さん、やるねぇ」



「実家が大工やっててね。これくらいならなんとかなるさ。さて、あとは」



 男は櫓に更に手を加え、いくつかの“滑車”を取り付けた。



「ヘッヘッ、重たい物を持ち上げるなら、やはりこれだろ」



「なるほど。それなら持ち上がるかもしれん」



 兵士は男の発想に素直に感心した。剣を抜くならその身で、という思い込みを打破し、櫓を組み立て滑車を利用し、剣を抜いてしまおうなど、常人の発想ではない。


 王様になるような人はこういう考えもするんだ、と兵士は作業を続ける男を羨望の目で見つめた。



「っし、こんなもんか。あとは……」



 男は櫓から下りてくると、剣の柄にしっかりと縄を括り付けた。



「兵士さん、一緒に上まで登ってくれや」



「お安い御用だ」



 二人で櫓の上に立ち、そして、縄の反対側をしっかりと握った。



「あとは剣の長さが、想定範囲を超えてなければいける!」



「さすがに大丈夫でしょう」



「おうさ!」



 男は縄をしっかり握り、兵士は男の肩にしがみ付いた。


 そして、櫓から飛び降りた。二人分の体重と兵士の着ている鎧の重さが縄にかかり、滑車によって増幅され、大きな上向きの力が剣に伝わった。


 そして、剣は動き出した。スルリスルリと抜けていき、剣が抜けた分だけ、二人も地面に向かって落ちていく。


 交差する二人と、恐ろしく長い剣。だが、物事には何にも限りと言う物があった。


 そう、地面に降り立つと同時に、剣もまた岩から抜け出し、先端部を二人の前に晒したのだ。


 それは本当に長い長い剣だった。大人の身長3人分はあろうかという長さだった。


 だが、それもとうとうすべてをさらけ出すこととなった。一人の旅商人の機転によって、実に50年ぶりにその姿を見せた。



「「抜けたぁぁぁ!」」



 男と兵士の歓喜の声は周囲に響き渡った。

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