第3話 大男の挑戦

「おらぁ、どけどけぇ!」


 物思いに耽っていると、男と兵士を押しのけて、一人の大男が岩の剣の前に進み出た。


 かなりの長身で相当鍛え抜かれている体が見えた。筋骨隆々とはまさにこれだ、といわんばかりの偉丈夫だ。



「お前らが証人だ! 俺が剣を抜いて、王様になってやるぜ!」



 腕をバキバキ鳴らした後、男は何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、それから柄を握った。



「うおりゃぁぁぁ!」



 大男の声に合わせて飛び散る汗、膨らむ筋肉、そして、動き出す剣。



「おお!?」



「これはいけるか!?」



 見ている男も兵士も、いつの間にか握り拳を作り出し、徐々に持ち上がる剣を見つめ、なおも絶叫する大男に声援を送った。


 だが、それも無駄に終わった。


 大男はたしかに剣を動かし、高く持ち上げた。現在、大男は天に向かって万歳しているかのように、その手を掲げている状態だ。


 だが、剣は抜けない。刃の部分が恐ろしく長く、まだ先端が見えないほどに長かったんだ。



「な、なんじゃぁこりゃぁ!?」



 大男の叫びも無理なかった。いけたと思ったのに、剣が長すぎて失敗。


 持ち上がろうとも、剣先はまだ岩の中。これではとても“抜けた”という判定は出せない。



「なっが!」



「てか、この剣って、こういう感じになってたんだ」



 男も兵士も呆れ返った。


 目の前にいる現在の挑戦者は、かなりの長身だ。それが万歳するくらいにまで腕を上げているにもかかわらず、岩から抜けきってないのだ。



「ぐぅぅぅ、も、もうダメだ!」



 大男はとうとう耐えきれなくなって剣から手を放した。


 すると、せっかく持ち上がった剣がまた岩へと吸い込まれるかのように刺さっていき、元の状態に戻ってしまった。



「やってられっか! どうあがいても、抜けねぇじゃねえか!」



 大男は怒りを剣にぶつけ、不敵な笑みを浮かべていそうな剣の柄を蹴っ飛ばし、その場から消えてしまった。


 妙な静寂だけがその場に残り、男と兵士は視線を合わせた。



「あの身長で抜けないとなると、相当長いな、あの剣」



「ここの見張りを任されて三年くらいになるが、あそこまで持ち上げた奴は初めてだ。それでも抜けない。本当に今の王様はどうやって抜いたんだ!?」



 男も兵士も腕を組み、人間を嘲笑う突き刺さった剣を睨みつけた。



「人の力では無理なのか……? 人の力、人の力……。あ、そうだ!」



 男は何かを閃いたのか、パンと手を叩いた。



「人の力で無理なら、道具を使えばいいじゃないか!」



「え、それっていいのか?」



「兵士さんよ、この剣に関する決まり事はあるのかい?」



「あるのは、あくまで“この岩に刺さった剣を抜いた者を次の王様とする!”という一言だけだよ。他の決まりは特にない。……ああ、そういうことか!」



「そう。規則がないなら、禁じられていないという事。道具を使っても問題ない!」



 禁止されてないなら使用可能。道具に頼ろうとも、“抜ければ”なんでも許される。むしろ、怪力よりも、頭の方が試される王様の試験なのだ。



「よし、そうと決まれば、作るべきものは“アレ”だな」



「お、何かいい道具があるのかい?」



「ちょっと、町まで買い物に行ってくる!」



 男は兵士に別れを告げ、町の方へと駆けていった。

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