第5話 3つの約束
思いがけず王様になることとなった男は、喜びに心を満たしていた。
男が剣を抜いた事の証人となった兵士は、ただちに城に戻り、王様に報告してくるから待っていてくれと言って城に向かって駆けていった。
しばし待つこと、先程の兵士が戻って来た。それも豪華な“輿”まで引き連れていた。四人で担ぐ大きくて豪華な輿だ。
「さあさあ、“国王陛下”! どうぞこちらにお乗りください」
「おお、苦しゅうない、苦しゅうないぞ」
口調も変え、すっかり王様気分だ。そして、輿に乗って、その上にある手の込んだ細工物が彫り込まれた椅子に腰かけた。
座ったのを確認すると、四人の従卒が輿を持ち上げ、城へ向かって進み始めた。
城下町まで到着すると、町の大通りには人々が押しかけ、新しい王様を一目見ようとズラリと並んでいた。歓声が飛び交う中、輿に揺られて突き進む男は、本当に王様になったんだと実感した。
「ところで、兵士君、これからどこに行くのだっけ?」
「もちろん、城に向かいます。現国王に会っていただき、そこで継承の儀を執り行います。それが終わって、正式な新国王になるというわけです」
兵士の説明に納得し、男は頷いた。
知りたいと思った儀式の“秘密”に迫れるのだ。苦労して抜いた甲斐があったと言うものだ。
沿道に並ぶ人々に愉快に手を振りながら輿に揺られていると、城までやって来た。
大きな門をくぐり、城壁の内側に入ると、そこにはこれまたズラリと兵士や宮仕え達が居並び、新たなる国王を出迎えてくれた。
その更に奥には、豪華な服に身を包み、王冠を頭に乗せる男が待っていた。両手を広げ、新たなる国王になるべき男に歓迎の意を示した。
「ようこそお越しくだされた、新国王よ」
「歓迎痛み入ります、旧国王よ」
二人はしっかりと抱き合い、いよいよ継承の儀式が始まると互いに覚悟を決めた。
そして、天からまばゆい光が放たれ、2つの球体が下りてきた。眩しくて正体は分からないが、羽の生えた白と黒の球、そう男には視認できた。
「おお、これが話に聞いていた精霊か」
自分の周りをグルグル回る白黒の球体を珍しそうに眺め、男は徐々に儀式に向かう意気込みを高めていった。
「新国王ぉ~、儀式、行っとく~?」
「行っとけ~」
「その前に、約束事ある~」
「契約契約~」
なんとも気の抜ける精霊の喋り方ではあるが、儀式に赴くのに先立って約束事がある事を知った。
男は無言で頷き、それを話すように促した。
「約束事は3つだよ~」
「まずは、“儀式の内容は決して口外しない”という事だよ~」
これは即座に理解できた。
兵士からの情報だが、前国王は王位継承の儀式については、絶対に話そうとはしなかった。
こうして事前に約を交えていたのであれば、納得と言うものだ。
「次は叶えて欲しい願い事について~」
「“剣”に関する規則に触れない限りは、何を頼んでもいいよ~」
これは男にとって意外であった。
剣に関する決まり事は変更できない。
つまり、剣を抜いた者が次の王様になる、というのは動かせないのだという。
だが、それ以外の縛りはない。
これは悩むなと、男は願い事を全力で考え始めた。
「最後のやつ~」
「不老不死を与えるけど、“ある一つの条件”を満たさない限り、永遠に生き続けられるよ~」
「そうそう~。それが何かについては、“儀式の間”の中でしか話せない~。儀式の間に入ったら、もう後戻りはできないよ~」
「それでもいいなら、付いて来い~」
白黒の球体は旧国王の両肩に降り、そのまま儀式の間へと入っていった。
(後戻りはできないと言ったが……)
まだ伏せられている“秘密”はある。
だが、それを暴き出すには儀式を受ける必要がある。
その中には、不老不死と、制限付きだが願い事を1つ叶えてくれるのだと言う。
王様として権力と財を手にし、しかもそれが永遠に続く。
ならば、臆する事は何もないと、男は儀式の間へと入っていった。
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