第7話 時すでに遅し

「さて、残るは、願い事だな」



「新国王よ、何を望むか?」



 天使と悪魔はせっかちな事に、前国王の首を刎ねて余韻に浸っている男に、さっさと言えと催促してきた。


 男はやれやれと思いつつも、すでに願い事は決まっていた。



「ならば、望むべきはただ一つ」


 

 男は天使と悪魔を交互に指さし、そして、叫んだ



「お前らを消す方法を……!」



「残念、それは却下だ」



「我らが消えれば、剣そのものもなくなる。剣の約束事に干渉することと同義だ」



 流石に虫が良すぎたかと、男は頭を掻いて誤魔化した。


 そんな男に向かって、天使と悪魔はニヤリと笑った。



「しかし、あれだな。そこの首をはねられた奴と同じ事を言う」



「賢者は時として、同じ橋を渡ると言う事か」



「そりゃあ、いずれ首を跳ね飛ばしに来る相手が目の前にいるんだ。消そうと考えるのは当然の帰結だ」



 天使と悪魔が儀式を執り行うのであれば、二人がいなくなれば、儀式そのものがなくなる。


 継承されなくなれば、本当の意味で永遠の存在になれる。


 そう踏んだのであるが、それはさすがに虫が良すぎた。


 ならば、別の手段に訴えかけようと、頭を捻った。



「……なら、俺がどうやって剣を抜いたか、その記憶を世界中から消してくれ」



「ほう、そう来たか」



「そして、その願いも、こいつと一緒だ」



「だろうな」



 前国王がどう攻略したかは知らないが、攻略の方法を知られてしまえば、次は簡単だ。前と同じ方法で抜けばいい。



「あんたらも性格が悪いな。願い事といいながら、実質これを願う以外にない。もしくは、抜けないように更に剣を巨大化させるか?」



「それも一つの手だな」



「だが、抜けない剣を抜けと言うのは公平フェアではないな」



「悪魔よ、お前の口から“公平フェア”という言葉を聞く日が来ようとはな」



「抜かせ、天使。悪魔は契約の内側であれば、公平で誠実なのだぞ」



「結んだ契約に穴を仕込むのを忘れてくれれば、なお面白いのだが」



「うるさいぞ、天使。勝ち負けがあるからこそ、勝負とは燃えるのだ。ほれ、これで97戦して、私の1つ勝ち越しだ」



「腹立たしい限りだ。役に立たぬ王様めが」



 そう言って天使は転がる首を足蹴にし、それを悪魔に向けて蹴飛ばした。


 悪魔はそれを受け取ると、サァ~っと砂のように吹き消された。


 体の方もまた、跡形もなく消えた。



「そういうことか、この儀式の“秘密”は聖魔の縄張り争い。ここの国での出来事で、互いの領分シェアを競っているな!?」



「ほほう、そこまで気付くと賢しいな」



「前の王様より、さらに踏み込んでくるか。これは興味深い」



 素直に感心したのか、天使も悪魔も揃って男に拍手を贈った。



「条件付きの不老不死を与え、“何年もつか”の上か下かハイ&ロー、その遊戯盤と言うわけか、この国は。そして、剣が開始と終了の笛の役割」



 どんな“秘密”が隠されているかと挑んでみれば、とんだ茶番であった。


 この2匹の化物に支配され、弄ばれる国、その王様になってしまったのだ。


 欲望と好奇心を刺激し、不老不死と玉座を餌に釣り上げて、かかった魚がもがき苦しむ様を見て楽しむなど吐き気がする思いだ。


 ましてや、自分がその魚など、真っ平御免であった。



「ああ、止めておけ。約を交わした以上、ここでの話は他言無用」



「破ればただでは済まぬぞ」



 そして、二人は息を合わせて吐き出した。



「「天使と悪魔、同時の契約、破れば“天国”にも“地獄”にも居場所はないと思え」」



 そう言うなり、天使と悪魔は消え去っていった。


 凍り付くほどの恐怖と後味の悪さを残して。

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