第8話 そしてまた、時は巡る

「なあ、悪魔よ」



「なんだ、天使よ」



「そろそろこの遊びも飽いてきた。幕引きとせぬか?」



「相も変わらずせこい奴め。負けておるからと、幕引きを図るか」



「なんのなんの。これから3つ連続で勝ち星をいただく」



「面白い。やって見せろ。その言の通りとならば、お前の2つ勝ち越しで、丁度回数も100となる」



「差し当たって、今の王様がどう動くか」



「またいつもの“アレ”ではないか?」



 二人は様子を探ると、新国王となった男は例の岩にやって来ていた。


 そして、“何か”を岩の裂け目に流し込み、それから剣を突き立てた。



「あやつめ、何たる痴れ者か! 裂け目に瀝青れきせいを流し込みおったぞ!」



「なるほど、あれを接着剤として、剣を抜けなくするか。これは確かに痴れ者だ」



 抜ける方法があるからこそ、剣を抜くと言う勝負であるのに、抜かせないと言う意思を強烈に感じる行動であった。


 しかも、その横に建てた看板には、以下のようなことが書かれていた。



「尻に皿を挟み、左手で耳の穴に指を突っ込んでグリグリしながら、右手で刺さった剣を握って、『俺に任せろ』と叫んで剣が抜けたら、汝を王とする」



 これを見るなり、天使も悪魔も爆笑した。



「まったく抜かせる気のない書き込みだな」



「結構結構。つまり、王様をずっと続けたいと言う気持ちの表れだな」



「だが、それも最初の内だけだ。いずれその生活に飽きる」



「なにより、時の流れは残酷だ。取り残される自分と、自然のままに流れゆく周囲。家族、友人が置いていく中、変わらぬ自分。どこまで正気を保っていられるかな」



 これもいつもの流れだ。


 いつも剣を抜かせまいと、あの手この手で妨害しようとする。


 何しろ、“前”国王もまた、同じようにやる気のない看板を立てていた。


 また、鍛冶屋に頼んで、剣を巨大化させた。


 それがいつしか“この岩に刺さった剣を抜いた者を次の王様とする!”の文言に変わっていた。


 なおも抜けぬ剣に苛立ちを覚え、“さっさと抜きやがれ!”と殴り書く始末。


 その字すら霞むほどの年月も流れた。


 結局、人は苦しむのだ。


 打ち明けられぬ“秘密”を抱え込むほど、重い荷はない。


 今の国王もまた、いずれそれに押し潰される事になるだろう。


 それがいつなのかは分からない。


 分からないからこそ、天使と悪魔の勝負は成立するのだ。



「「さあ、見せてくれ。抗う様を」」



 そしてまた、時は巡る。



                   ~ 終 ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

岩に刺さった剣と秘密の儀式 夢神 蒼茫 @neginegigunsou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説