岩に刺さった剣と秘密の儀式

夢神 蒼茫

第1話 岩に刺さった剣

“この岩に刺さった剣を抜いた者を次の王様とする!”



 このように書かれた立て札と、岩に突き刺さった剣が男の目の前に鎮座していた。


 刃の部分が見えないほどにしっかりと刺さっており、柄の部分を残してほぼ地中に埋まっている状態だ。


 剣自身が「抜いてみろよ」といわんばかりの横柄な態度を示していた。



「おいおい、こんなの抜けんのか!?」



 岩に刺さった剣をまじまじと見つめ、男は首を傾げた。


 行商人として初めて訪れたが、剣を抜いた者に王位を譲るなど、この国の王様は余程の変人なのだろうと勝手に解釈した。



「やあやあ、兄さん、挑戦してみるかい?」



 首を傾げる男に兵士が話しかけてきた。



「兵士さんよ、この剣は本当に抜けるんだろうな? 柄以外は偽物で、岩と一体化している、なんてことはないだろうね?」



 男は即座に頭の中で算盤を弾き、“観光資源”という答えを仮定していた。


 剣を抜けば王様。この文言だけでも挑戦したくなる。


 程々の額を挑戦料として徴収すれば、ちょっとした金になる。


 だが、兵士は手を振ってそれを否定した。



「ちゃんと抜ける剣だよ。それに挑戦料とかないから。やるのは“無料タダ”だ。かくいう自分も、毎日挑戦している」



 そう言うと、兵士はおもむろに岩に刺さった剣を掴み、引っ張り上げようとした。


 顔を真っ赤にするほど力を入れて「うぉぉぉ!」と叫ぶも効果なし。


 いや、ほんの僅かだが動いた。爪先ほどの微々たるものだが、確かに剣は動いた。



「だはぁ~! やっぱ重いわ、こりゃ。結構鍛えているんだが、これが限界だわ」



 兵士は手をブラブラさせて解し、それから手拭いで垂れる汗を拭いた。



「まあ、動くのは分かった。でも、重すぎて抜けないんじゃないか?」



 男は剣の柄を指で突き、怪訝な瞳を兵士に向けた。



「そんなことはないよ。この国の今の王様も、この剣を抜いて、その前の王様から王位を譲り受けたんですから」



「へ~。今の王様もそうなんだ。余程の怪力自慢か」



「そうでもないよ。体格は兄さんとそれ程大差ないね」



「それで抜いたんなら、大したもんだ」



 男は素直に感心した。先程の兵士の具合を見る限りは、相当な重さであろうこの剣を、自分と同じくらいの人物が抜いたと知ったからだ。


 コツのようなものでもあるのかと、考察しながら剣の刺さる岩をグルグル回るも、何の閃きも発見もなかった。



「ダメだな~。さっぱり分からん。何か仕掛けがあるとは思うんだが……」



「まあ、実はそれが狙いだったりするんだがね」



 ニヤニヤ笑う兵士は男の肩をポンポン馴れ馴れしく叩いた。



「普通に体を鍛え上げて、何度も挑戦しに来るし、あるいは、『これだ!』と閃いて妙な儀式を始める奴までいる。噂を耳にした奴は、結構遠くからでも来るぜ」



「やっぱ観光資源じゃないか。ここで金を取らずとも、飲食、宿泊の金がこの国に落ちる」



「ま、微々たるものだけどね」



 笑いかけて来る兵士だが、これはただの観光資源じゃない。何かもっと大きな“秘密”がある。


 男の直感がそう告げていた。

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