宿題〜ぼくたちの明日
ぼくとロボ先生を乗せた元スクールバスは、陽気なアイスコーヒーの歌をヘビロテしつつ、高速道路をひた走る。
早起きして、体操して、オートミールで朝ごはん。
カフェマスターは相変わらずコーヒー色の廃オイルばかりをぐいぐい勧めてくるけれど、そこは丁重にお断りして。
ぼくは冷たい水に粉ミルクを溶かす。もちろん腰に手を当てて一気にごくごくぷはぁ。
ロボ先生は、ロッキングチェアに深く身を沈め、足先を高く振り出してから膝を組み、モーニング機械油のカップを持つ手の小指をぴんと立てて給油口へと運ぶ。
でもって、昼間の暑い時間はパーキングエリアでのんびり休憩。
夜はテントを張って、ロボ先生の背中にもたれて眠る。金属とシリコンの腕が、ゆったりと暖かい。
リリリリ、リリリリ。
虫の歌が優しい。
夜空にはいっぱいの星。雲間からのぞく月の色は、相変わらず緑青の粉を吹いたまだら模様だけれど、星は星のまんまだ。昔と変わらない。
ぼくはロボ先生の手をそっと握る。
「悪い。起こしてしまったか」
ロボ先生は半眼に閉じていた目のシャッターを開ける。ぼくは首を横に振る。
「ううん、トイレ」
「ついて行こうか」
「一人で行けるし!」
夏の間ずっと、蝉がギャン泣きしてたり、地虫がジージー鳴いたり、カエルが全員で大合唱したりしてたはずなのに、いつの間にか、一匹ずつ聞き分けられるほどひっそりと鳴く別の虫の声に変わっている。
首筋を撫でる秋の気配。
案内標識がうっすらと青く月の光を反射する。ロングフィールまであと100キロ。
蛇口をひねって、ちょろちょろと水を出す。出すもの出したら、しっかり手を洗わなきゃ。と思ったのにあんまり水が冷たいものだから、つい、うひゃってへんな声をあげてしまう。
くしゅん。ぶるぶる。ちょっと寒い。
両手で自分を抱えてロボ先生のところへ戻る。
「抹消体温が下がっているな」
ごつごつとした機械の手がぼくの手を挟んでくれる。緑とオレンジのLEDマークがまたたく。
不思議とあったかい。低い駆動音が聞こえる。子守唄みたいだ。
ぼくはすぐにうとうとして、あくびして、背中をまるめて、ロボ先生に寄り添う。
ロングフィールまで、もう、あと100キロ。
「ずっと、こんな静かな夜が続けばいいのにね」
「残念だな。きっと明日は馬鹿騒ぎだぞ」
夏休みって、始まってすぐは世界中がハッピー。毎日が天国だ。で、しばらくたつと、OK、まだ三分の一しか過ぎてない。やっと7月が終わったばかりじゃないか。大丈夫、これからだよ。夏は始まったばかり。
でも気がつけば、いつの間にか。
目の前に、もう秋学期が迫ってる。
ずっといつまでも夏の日が続けばいいのにって思いながら、あと1日に迫った最後の夏休みの貴重な時間を、自分を責めたり、あわてたりあきらめたり、笑ってごまかそうとしたり。
じたばたし続けて、結局また無駄にしちゃうんだ。
ぼくらを乗せたバスは、ロングフィール駅前のバスターミナルに滑り込む。
「エエー、ロングフィール、ロングフィール駅。降リ口ハ左側ッス」
「ありがとう」
ぼくはバックパックを背負い、バスを降りる。
周りを見回す。
駅といっても、今残っているのは駅舎の黒い骨組みだけだ。もちろん電車なんて走ってるわけもない。駅構内の線路は茹ですぎたパスタみたいにぐにゃぐにゃよじれている。
ここも人の姿はない。
駅前のロータリーを歩く。観光案内の看板が立っている。地図に描かれた街の半分以上が煤で汚れて見えない。
小さな影が物陰を横切る。
「やっぱり、誰もいない」
ぼくは駅前広場の真ん中で立ち止まる。
どうしよう。お腹もちょっと空いてきたし。ここはやはりきちんと腹ごしらえしとくべきかな。
ぼくはひゅうひゅうと口笛を吹いて、枯草と雑草の咲くレンガの花壇に腰掛ける。いつだってごはんの時間は最高にハッピー。
今日のランチは、ぎっしりレーズンとキャラメルナッツのシリアルバー。小さいけど栄養満点だ。
お茶を飲んで、もぐもぐする。うん。おいしい。ロボ先生は隣に座って周囲を警戒中。どうせ誰もいないってのに、まじめなんだから。
ぐぅ。どこかで虫の鳴く声がする。
「何か言った?」
「いや。何も」
ロボ先生は素知らぬ顔でカメラを赤外線ファインダーに切り替える。
測距光が赤く点滅する。
気のせいか、誰かに見られてるような気がする。何か落ち着かない。何だろう、この感じ。視線がクモの巣みたいにまとわりついてくる。
ぐうううううう。また虫が鳴いてる。
いったい何の虫だろう? 気になる。すごく気になる。
ここで質問です。虫は虫でも、ぐうぐう鳴く虫は何でしょう?
「あっUFO!!」
「えっどこどこ!?」
つられて空を見上げた瞬間。
黒い影がヒュンって目の前を走り抜ける。
「あっ!?」
手に持った食べかけのキャラメルナッツバーが一瞬、宙に舞う。
「よっしゃあぁ食いもんゲッ……ふぐっっ!」
ロボ先生のマニピュレータがにゅうんと伸びて、すばしっこい影を捕まえる。
「コソ泥ゲットである」
ぶらんと吊り下げる。
「うっせえっ何すんだよ離せよっこの殺人ロボット!」
ぼくは目を丸くする。男の子だ。
身長は、ぼくより頭ひとつぶんぐらい小さい。大きすぎるハンチング帽をまぶかにかぶって、何重にも裾をまくり上げたオーバーオールを着て、破れたスニーカーの足で、ロボ先生のお腹を蹴りまくっている。
「取ったもんは俺のもん! ぜってえに返さねぇからなっ!」
男の子は、糸の切れた操り人形みたいにぶらんぶらん揺れながら、すごい勢いでシリアルバーを口へ押し込む。完全にほっぺたがハムスターだ。
「へえッヘッヘ、食っひまっららこっちのもんら……んぐっ!?」
顔が青い。
え、うそ。やばい? ぼくはどうしたらいいか分からなくておろおろする。まさか、キャラメルが喉にくっついちゃったとか?
「苦しい! くるひい! 助けけ!」
男の子は足をじたばたさせる。
やっぱり喉に詰まってるんだ。
助けなきゃ。
「ロボ先生、降ろしてあげて!」
「どう見ても演技だが」
「いいから」
ロボ先生はしぶしぶ男の子を地面に下ろす。ぼくは男の子に駆け寄る。早く背中をさすってあげないと、息が……
「バーカバーカバーカ!!」
気づいたら突き飛ばされてた。バックパックの中から、残りのシリアルバーがこぼれて地面に散らばる。
「アホーが見るーーぶたーのけーつーー♪」
ぼくが仰向けにひっくり返っている間に、男の子はシリアルバーを全部ひったくり、走り去る。
「あれっ……ええと……何が起こってんの?」
「後を追わなくていいのか」
ロボ先生がぼそっとうながす。
ぼくははねおきる。
「コラア待てえーーー!!」
「うっせえバーカバーカバーカ! あっかんべーー!」
男の子は、はるか前方でお尻を突き出してぺんぺん叩き、悪たれ全開の舌を出す。
いやいや今どき、そんなレトロなギャグ漫画っぽいことする現実の人間が本当にいる?
「待てえー! 返せー! ぼくのごはんー!」
「やーだねッ!」
ぼくは男の子を追いかけて街中を走り回る。シリアルバーをたらふく口に詰め込んだおかげか、やたらすばしっこくて全然追いつけそうにもない。半分めそめそしながら息を切らす。
「ねえ、ちょっとでいいからさ、話を聞いてよ」
「やなこったー」
「人を探してるんだよ」
「その手には乗んねーし!」
「エノーラって子を探してるんだ」
「はあーん? エノーラに何の用だよ?」
「知ってるんだ。ねえ、どこ?」
「全っ然知らねーし!」
「本当は知ってるんでしょ? ね? 教えてよ。エノーラはどこ。ねえ……!」
男の子の背中が小さくなる。前方は街はずれの坂道。その先はまばらに森が広がる緑の丘だ。
ぼくは男の子の走り去った方角をめざして坂道を駆け上がる。最後の方は急な階段だ。
わかった。きっと、丘の上にも別の街があるんだ。
坂の上の小さな集落。たとえるなら、ぼくの家みたいなところが。
見晴らしのいいところに広々とした家をたてて、いぬを飼ったり、ヤギを飼ったりするのが好きな人たちが住む地区。きっとそうだよ。
内陸だから海は見えないけど、代わりに遠くの山があおあおとしてたり、夜空の星がはっきりくっきり、光る砂粒みたいに輝いて見えたりするような、そんな景色が大好きな人たちがいるんだ。エノーラもきっと、そこに。
ぼくは一足飛びに頂上を目指す。息を切らして、はあはあ言って、ほとんどふらふらになりながら、それでも飛び跳ねる足取りで階段を登る。
ぱっ、と視界が広がる。緑の森。小さな木造の教会。丘の斜面に沿って、真っ白い石畳の道がくねくねと曲がる。
その向こうは。
斜面をびっしり埋め尽くす無数の、白い、十字架。
ぼくは十字架のひとつに近づく。石に刻まれた墓碑に視線を落とす。
外国ふうの名前だから姓のところは読めないけれど、最初の名前は分かる。エノーラ。
風が、木々の梢を揺らす。
花が揺れる。さわさわと音を立てて、風の波が通り過ぎる。
ぼくは深呼吸をひとつして、何だかツンとする鼻をこする。それからまばたきして、空を見上げて。喉の奥に込み上げてくる腫れ物のかたまりを無理にのみこむ。
ジャジャーン! それではラストクイズです! ぼくは、何のためにここへきたのでしょう? そしてこのあと、いったい何をすればいいのでしょうか? ではお答えください、おっとさすがはエム君。一番に手を挙げたあ! 果たして正解なるのでしょうか。さあ、お答えください。どうぞ!!
何も、頭に浮かばない。
明日から、いったい、ぼくは。何を。
突然、銃声が一発。続けていくつもの足音が駆け寄ってくる。
「何で敵国の自爆ロボットがこんなところにまで入り込んでんだ! 仲間を呼ぶ前にさっさと片づけちまえ!」
激しい銃撃の音が跳ね返る。ぼくは悲鳴をあげて耳をふさぐ。
「危険だ。動くな」
ロボ先生はぼくをむりやり引き戻す。ぼくはロボ先生の腕の中。強い衝撃が伝わる。
何度も。
何度も。
いくら鈍いぼくでも気がつく。撃たれてるんだ。
「やめて。やめてったら。ねえ、撃たないで……やめて……!」
ぼくが叫んだ声は、無数の銃声にかき消される。
鉄の焦げる臭い。火花の散るけたたましい音。それでもロボ先生は、ぼくを腕の中に抱きしめたまま動かない。
「ロボ先生。逃げて。逃げよう。早く!」
「だえあ」
「何で!」
「ぱら`お会いjろいあじお田……………、、仰お」
声が聞き取れない。何を言ってるのかもわからない。聞こえるのはひび割れたノイズだけ。
嫌だ、こんなの。
いやだ。
本当は悪いやつみんなやっつけられるくせに。本当は強いくせに。
本当は、本当に強すぎるから、ロボ先生はわざと戦わないんだ。
ぼくに。
恐ろしいあやまちを。
見せないために。
「だからって、こんなのないよ。ロボ先生、手を離して」
「イジョあらめぱ」
「いいから!」
ぼくはロボ先生の手を振り払う。両手を広げて銃弾の前に飛び出し、立ちはだかる。
「撃つな」
ほっぺたを銃弾がヂッとかすめる。怖くて、怖くて。膝が震える。目を開けていられない。熱い。ちぎれそうだ。
「撃たないでって言ってるでしょう」
でも、こんなの全然、どうってことない。
ロボ先生はぼくの友だちだ。ぼくがロボ先生を守らなくて、誰が守れるっていうんだ。
「やめてって言ってるだろ! 何でいきなり撃つんだ! どうしてちゃんと人の話を聞かないんだよ!」
ふいに。
銃声が止む。
ロボ先生を攻撃していたのは、ぼくが追いかけてきたシリアルバー泥棒の男の子と。その子の父親らしき男の人。その他にも銃を持った街の人の生き残りが数人。それから。
「エム……? エムなの……?」
それから。
それから。
「無事だったのね。よかった。会いたかった……!」
帽子をはねとばし、真っ白のワンピースをひるがえらせてぼくにとびついてくる、髪の長い——
ぼくは、ぴき、っと固まる。
見たこともない、ものすごい、何というか、あの。
ものすごく美人で、ものすごくスタイルがよくて。ものすごく、その、おっぱいの大きな女の人が。ものすごい勢いでぼくに飛びついてきて、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。
うう。苦しい。息ができない。あの。あのっ……ちょっと待って。あのう……クイズいいですか……?
誰?
女の人は、どうやらぼくの態度が気に入らなかったみたいだ。腰に手を当ててあごをふんっとそらす。
「ちょっと。何その顔。あたしにまた会えたんだから、ちょっとは喜んだらどうなの」
「そんなこと言われましても」
ぼくはぶるぶる震えて、ロボ先生の後ろに逃げ込む。
「ロボ先生、怖いよ。知らないえっちな女の人が馴れ馴れしく抱きついてくるー!」
「あろ青mvオアrがp;亞;」
何言ってるか分からないけどたぶん《お前は誰だー!》って言ってる。うん。きっとそうに違いない。
「失礼ね。これでもあたし、ロングフィールで一番のエンジニアなんだけど」
「どう言うこと……」
「仕方ないわね。ではクイズです。動くものに映像を投射する技術を何と言うでしょう?」
女の人は、つんとあごをそらし、腰に手を当てて長い髪をさらっと手で払う。耳元には白い花のイヤリング。エノーラそっくりだ。
「幽霊?」
「だから違うってば。見たことない? ミニドローンとダイナミックプロジェクションマッピングを組み合わせて、何もない空間に動くキャラクター映像を表示してたの。まあ、その、アバターの外見はちょっといろいろ盛ったけど」
「つまり、幽霊……」
「だから、もう。違うし」
エノーラそっくりの仕草をする女の人は、はっとしたふうにロボ先生を見て、それからぼくの手を強く引っ張る。
「そんなことよりエム、そいつから離れて。そいつは敵国の自爆ロボットよ」
「何言ってんの。違うし。ロボ先生はぼくをずっと守って」
そこで気がつく。
「待って。何でぼくの名前を知ってるの」
「まだ気が付かないの。あたしが本物のエノーラ」
「えっ。何で大人なの?」
「そこは大人の事情よ」
それに。
ぼくは背後のお墓を振り返る。
「エノーラのお墓なら……ここにあるけど?」
「それ親戚のひいばあちゃんのお墓」
「エノーラっておばあちゃんだったの……?」
「違うし! ああ、もう。あたしのことはどうでもいいから。早くそいつから離れるの。そいつは危険なロボットなの。いつ自爆するかわからない。だから早く。今のうちに」
自称本物のエノーラは、ぼくの手をさらにぐいぐい引いてロボ先生から引き離そうとする。
「やめて。ロボ先生はそんなことしない」
「あたしを信じてないの? アバターが違うから? 見た目で判断するってこと?」
「そうじゃない。違う」
ぼくはロボ先生のそばにかがみ込む。
「ロボ先生」
ロボ先生はぴくりとも動かない。ぼくはロボ先生の胸に耳を当てる。何の音もしない。何の光も瞬いていない。あんなに温かかったロボ先生の手が。今は。
だらりと地面に垂れ下がって。
ハイザールで見た、工場の中で動かない黒い塊みたいに。つめたくなっている。
ぼくはロボ先生を抱きしめる。
寒い夜の間、冷えるぼくの身体をぎゅってしてくれたのと同じように。
「ロボ先生は友だちなんだ。ずっと一緒にいるって約束した」
旅の終わりが。
お別れのときだなんて。
そんな約束した覚えはない。
だから。
だから……!
「キュゥーーーン」
ぼくの腕の中で、変な音がする。
「ピキューーーーーン……ップッスン……キューーーン……」
ロボ先生のカメラレンズが、キュルキュルと音を立てて回る。
「青緋青mタハthpl@亞pは@あ」
「《すまないが再起動してくれないだろうか》ッッツーッテルッスーー」
カフェマスターがコーヒーポットを手に、エノーラの後ろから顔をぬっ、と突き出す。どうやら、騒ぎを聞きつけて見にきてくれたらしい。
「fhmこいあj@ymはm:ぁまぽアパ」
「《どうやら言語ライブラリの再ダウンロードに失敗したらしい》ッッツーッテルッスーー」
「ロボ先生!!」
ぼくは。
ロボ先生の焦げくさい身体に頬をすりよせて、もう一回、ぎゅっと抱きしめる。言葉なんか通じなくてもいい。ロボットにこんな言い方するのはおかしいかもしれないけど。
よかった。生きててくれて、本当に。
半分壊れたロボ先生の手が。
ぼくの背中を、そっと撫でる。
「あーもー、分かったから。解散、解散! ほらもう野郎どもは帰った帰った!」
エノーラは、ぱんぱんと手を叩いて、不満そうな他の人たちを追い払う。
それから、腰に手を当てて。頭をぼりぼりとかいて。あーあ、って盛大に当てつけがましいクソデカため息をついて。
ぼくの知ってるエノーラとはずいぶん——かなり見た目も態度も全然違うけれど。
ぼくとロボ先生の傍らに屈み込んでくる。
「ごめんね。いきなり撃ったりして」
「ぼくはいいけど」
「ロボ先生だっけ、ごめんね」
「r助義あおいrjロコが@rが」
「《何、気にするほどの事ではない》ッッツーッテルッスーー!」
「うっ」
エノーラはよろよろして、手で胸を押さえる。
「めっちゃ気にするわ。何この良心の呵責……っ……どうなってんのよ。このタイプにAIは搭載されてないはずだけど」
「ロボ先生は、その……返品されて段ボールに入れられて捨てられてたとこをぼくが拾ったんだ」
「ぶっ」
エノーラは吹き出す。
「分かった。エムはもしかしたら希望の箱を拾ったのかもね。ちょっと待ってて。あたしの工房に運ぶわ。フォークリフトとってくる」
「直してくれるの?」
「もちろんよ。せっかくエムを無事にここまで連れてきてくれたって言うのに、こんな目に遭わせてしまったせめてものおわびにね。さあてと。明日から忙しくなるわ。あっ、こんなところにめっちゃいい感じのキッチンカーがあるじゃない。何か美味しいもの出せる? ……はい? 何? アイスコーヒーしかないっての? だめじゃん!」
ぼくは、エノーラがぶつくさ言いながら丘を降りてゆくのを見送る。
「ねえ、ロボ先生」
「kg顔絵gまl」
「ぼくはまだ子どもで、自分ひとりじゃ何もできないけど」
「なm」
エノーラがぼくのパパに助けてもらった時は、きっと、たぶん、ぼくと同じぐらいの年頃だったんだろう。パパが戦死したのは十年も前の話だから。大人になってて当たり前だ。
でも、その間、すごく辛い思いをしながらもきっとエノーラは必死にいろんなことをいっぱい勉強したんだと思う。
さっきは何を言ってるのか分からなかったけど。
赤いホタルも、エノーラがアバターを投影するのに使ったっていうドローンも、結局は同じ技術を使ってるんだ。人を殺すドローンも、ぼくを助けてくれるドローンも、元は同じ。使い方が悪いだけなんだ。
「ぼくが大人になるまでにさ、ロボ先生にもっといろいろ教えてもらいたいことがあるんだよね」
「田尾家と会いおま」
「人とロボットの正しい未来、とかさ」
「無愛エロいgじゃ今glら」
「早く言語ライブラリを直してもらったほうがよさそうだね」
「ほら、エム、早くこっちに来て。リフトをそっちへ持ってくから、ちょっとこの邪魔っけなキッチンカーをどっかにやってくれない?」
エノーラが手を振っている。
「はーい」
ぼくは立ち上がる。
そうそう、クイズの答えをまだ言ってなかったっけ。
質問。
明日から、ぼくは一体何をすればいいのでしょうか?
答えは。
戦争のない未来を。希望の明日を探す。
それが、ぼくの。ぼくたちの、明日への宿題だ。
(完)
ぼくとエノーラの秘密の隠れ家 Enola 上原 友里@男装メガネっ子元帥 @yuriworld
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