髪を求めて異世界へ~神によって間違えて死んだ髪の無い男~

ラムサレム

第1話 神が間違えて殺した男

「ごめんね。間違えて殺しちゃった」


初めに聞こえてきたのはそんな間抜けなおじいちゃんの声だった。


「詳しく聞かせて貰っても?」


俺──竹林たけばやし しんは理解できず胡坐あぐらをかいてそう聞いた。


この八畳一間はちじょうひとまの部屋でお茶をすすっているハゲは申し訳なさそうに話し始める。


「ええと、まずわしは世界を見守る神様なんだ。仕事は世界中の人を見守る事」


「同じことを二回も言わなくていいです。殺した、ということの説明を求めているんです」


「そうだよね、ごめん。君を殺したっていうのは儂がしたくしゃみのせいなんだ」


「くしゃみ?」


「儂のくしゃみメッチャ強くて世界に干渉しちゃうんだよね。だから偶に人が吹き飛んで別の世界に行っちゃうの」


「つまり、俺は今別の世界にいるんですか?」


「そう。いやあ儂のせいで急なこと言っちゃって申し訳ない。代わりになんだけど、その世界で生きるための最高にイカした能力をあげちゃうよ」


 神をのたまう髪の無いジジイが意味不明なことを言い出したため俺は話をさえぎった。


「ちょっと待ってください。何を言っているのかさっぱり分からないです」


「え?だからそこで生きるための力をあげるって」


「俺が分からないのはなんでそこで生きる前提ぜんていなのかって事ですよ。元に帰る方法は? 貴方神なんでしょ?」


「ええ~? 最近の子は力貰って喜ぶんだけどなぁ。あるよ。でも世界の構造って複雑だから人ひとりだけってのは骨が折れるって言うか」


「帰れるんですね?」


「うん・・・あるけど、代わりにその世界で生きるための力は無いからね」


「・・・この場ですぐ帰れないんですか?」


たましいってあるでしょう? 儂が体と魂一緒に吹き飛ばしちゃって、君は今異世界に魂があるから、見守るだけの儂じゃどうすることも出来ないんだよね。だから君は異世界にある時空のゆがみってところに入って」


「結局そのよく分からん場所に行かされるんですね。はぁ、それじゃ詳しい場所を教えてください」


「ああ、それは大丈夫。すぐ分かるから」


「は? そんな適当な」


「ごめーん次ひかえてるからーそれじゃ頑張がんばってねー」


「ふざけんなクソジジ──」


一メートル四方の穴が自分の下に開き、俺は重力加速度を高めながら落ちて行った。

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