第6話 抜ける事は出来ないみたい。色んな意味で
拍手と歓声が冒険者の店の中で巻き起こる。よくやった、やるなあんちゃん。など初めて見たカイトの敗北に冒険者たちは大いに盛り上がった。
「カイト!」
「カイちゃん!」
伸はそんな中カイトのパーティーメンバーへ向かっていく。女性メンバーたちはカイトへ駆け寄るが、伸はそれを遮るように立ちふさがった。
「退きなさいよ! カイトが気絶してるでしょ!」
「勝負は俺の勝ちだ。彼に薬草を渡してもらおうか。そうしたらここを退こう」
「そんなのいくらでも持っていきなさいよ! ほらっ」
持っていた薬草の束を俺に放り投げて彼女たちは通って行った。
(そんなにあっさり渡せるのか・・・)
彼が大切なのは十分わかったが、全部渡せるほど薬草がどうでもいいものなのかと思うと、金銭が惜しいからではなく単にスキーニーだから渡さなかったのではと邪推してしまう。それはそれで胸糞が悪いが、今は考えないようにしよう。
俺は姿勢を低くして、呆けた顔をした男の子へ薬草を手渡す。
「ほら、薬草だ。持っていきなさい」
男の子は慌ててそれを抱えると、申し訳なさそうな顔をした。
「本当にいいの? なんで僕のためにこんなことを・・・」
本当は彼が頑張っていたのかは分からない。俺はたまたま居合わせただけで、カイトという冒険者をよく知らないし、どういう雇用関係なのかも分からない。だが、高圧的な態度に屈せず立ち向かう姿に、彼の本気を感じたから。
「気にしなくていい。俺は単に頑張ってるやつを貶す奴が許せないだけなんだ」
それでも納得できていない彼に俺は迷いながらも続ける。
「そうだなぁ・・・じゃあ、これは頑張った君へのプレゼントだ。これなら受け取って貰えるかな?」
男の子は頷いて、きらめいた笑顔を振りまいて店を出て行った。
「シン様!」
男の子を見送り冒険者たちの喧騒が大きくなる中、受付の人が話しかけてきた。
「受付さん? どうしたんですか」
「どうしたじゃないですよ! あのプラチナ級冒険者カイトに勝つなんてすごい事なんですよ!」
「そ、そうなんですか?」
「はい・・・それと、ごめんなさい。私、あなたのその・・・見た目を笑うような言動をしてしまって」
「あれは仕方ないですよ。俺だって頭が光るなんて思いませんでしたし」
「いえ、受付として、人として恥ずべき行為でした。本当にごめんなさい」
「顔をあげてください。俺が勝てたのは受付さんの助言のおかげでもあるんです。あれが無ければ俺は勝てませんでした。こちらこそ感謝させてください」
「ありがとうございます。謝罪の印と言ってはあれなんですが、シン様は竜極峰を目指されていましたよね? 実はギルドにある竜極峰の情報をお渡ししたいと思っていたのですが、いかがですか?」
竜極峰に関する情報は冒険者から大体聞いたが、正確な情報があるならあるに越したことはないだろう。俺はもちろん受ける。
「じゃあ、ありがたく頂きます」
「はい! 資料をまとめてくるのでちょっと待っててくださいね!」
そう言うと受付さんは小走りで去っていった。すると、
「よぉ! カイトに勝った兄ちゃん!」
「えっもしかして俺の事・・・ですか?」
屈強な男たちが俺を囲んで話しかけてきた。小動物みたいに縮こまって彼らを見ていると、肩をドンと組まれてジョッキを渡された。
「あんた新米なのにやるなぁ! 今日は奢らせてくれよ!」
「あたいにも奢らせてちょうだい!」
「俺もだ!」
と、男たちが酒瓶を手に取るとジョッキに酒が並々と注がれていく。俺はなぜか冒険者たちに感謝、というか憂さ晴らしになったらしく、店はもうお祭り騒ぎだった。聞いたところ、なんでも俺が倒したカイトって人は自分の実力に胡坐をかいて手柄を全て自分のものにしたり、依頼を横取りしたりとかなり評判が悪く、彼らの間でも鬱憤がたまっていたらしい。
こんなに奢ってもらっては逃げて帰ることも出来ず、俺は人生で何度目かの一気飲みをすることとなった。
「うおおおお! それじゃあ全部一気に飲んでやる! みんな見てろぉ!」
「やりやがった! あいつやりやがったぜ!」
「フゥー! シンお前最高だよ!」
しばらくして、受付さんが戻ってきたのは俺が冒険者によって酔い潰された頃だった。
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