第3話 紙が読みずらいのよ

 猟師りょうしの男、タミは村に行く途中親切にこの場所を教えてくれた。ここはリガリ盆地ぼんちという大陸の真ん中にある土地らしい。俺が目指す一番高い山、竜極峰りょくみねから流れる水が生活の基盤だと言っていた。


 リガリ草原には緑色のオオカミとかデカい赤い熊とかの《魔物》がいるらしい。元の世界で言うけものが意味合い的に近いかもしれない。


「シン、ここまでお疲れ様。そしてようこそニューライフ村へ」


 川を下るほど二時間、それは見事な水車が回る豊かな村へたどり着いた。


「ニューライフ村って名前、変わってるだろ? 誰がつけたと思う?」


「多分俺と同じ異世界転生だよね」


「そう、この村はシンと同じいせかいてんせーの人間がつくった村なんだ」


「どおりで──」


 村の風景は、良くいえば飽きない所だ。全て木造の所もあれば石材を組み合わせたもの、土壁の建物など、建築材料けんちくざいりょうや建て方がバラバラで、悪くいえば統一感とういつかんが全くない。


「色んな建物があるんだな」


「ああ、いろんな奴がポンポン建てるから住むところには困らない。村の住人はこの半分くらいだと思っておいてくれ」


 と、タミは呆れたように言った。家だけ建ててどこかへ行く異世界転生者が多かったのだろうか。遠い目をしている。


 しばらく歩いて、この村で一番大きいヨーロッパ風の建物でタミは立ち止った。


「ここが酒場兼ギルドハウスだ。冒険者登録とうろくをするなら受付でしてもらえるよ」


「冒険者か、俺には縁のない仕事だな」


「シンは冒険者にならないのか、でも一応しといた方が良いよ。名前が周知しゅうちしやすくなるから」


「そうなのか、じゃあ一応登録だけしておくか」


「それじゃあ俺は仕事があるから、ここでお別れだ。また何かあったら向かいの家にいるから」


「タミ、ここまで教えてくれてありがとうな。仕事見つけたら何かおごらせてくれ」


「ああ、その・・・まあ頑張れよ」


 タミが何か言いかけているのを見て不思議に思ったが、気にせずギルドの扉を叩いた。


 子洒落こしゃれた扉を開けると落ち着いた雰囲気ふんいきでカフェのような内装だ。テーブルには背中や腰に剣を携えた人や、ぶかぶかの服と長い杖を身に着けた人が酒を飲んで笑っているのが見えた。カウンターに隣接りんせつした受付には眼鏡の女性が座っていた。


「いらっしゃいませ。依頼の発注はっちゅうでしょうか?」


「いえ、冒険者登録をしに来ました。竹林たけばやし しんって言います」


「はい、冒険者登録ですね。ではこちらの用紙に記入をお願いします」


 用紙も日本語・・・かと思いきやローマ字になっているようだ。非常に読みにくいし書くのも面倒だった。氏名、出身、年齢、あとスキル? と職業のらんがあったのでとりあえずスキルと職業以外は記入をして提出した。出身はいせかいてんせーと書いておいた。すると、受付の人は怪訝けげんな顔つきで用紙と俺の顔を交互に見て何か考えている様子だ。


(そんなやばい奴に見えるかな俺・・・ド〇ェイン・ジョンソンみたいに強面こわもてじゃないし大丈夫だと思うけど・・・)


「あのぅ、異世界転生の方ですよね? 何かスキルなど覚えていることはありますか?」


「多分、そういうのはした覚えがないですね」


「でしたら、スキルを鑑定かんていする装置があるので、そこで調べてみましょう」

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