第4話 髪が無いからなんだって言うんだ

 受付さんが持ってきたのは複雑な機械だった。半円の水晶すいしょうの上に透明とうめいなカバーが付いている。受付側には色々なボタンがついておりそちらで操作する様だ。


「水晶に触れてしばらくお待ちください」


(なんか血流検査を思い出すな)


と思いながら水晶に触れると水晶から緑色の光があふれ出した。これで何を調べているのかさっぱり分からないが、受付さんの眩しそうにタイピングする姿に若干の申し訳なさを感じていた。


光が納まると受付さんは用紙に何か書いて俺に渡した。登録用紙のスキル欄にはこう書かれていた。


光属性魔法ひかりぞくせいまほう】:頭部のみ発動可能


「あのーこれって何なんですか? 頭部のみとかってのは」


「・・・フッはい! スキル、これは貴方が使える能力の事です。魔法の鍛錬たんれんをすれば魔法の、戦士の鍛錬をすれば戦士のスキルを肉体が習得します。ただ転生者様にはたましいに刻まれたスキルがあって、今回はそれを調べさせていただきました。シン様は【光属性魔法】が自由に使える人、ということですね!」


「・・・頭部限定で?」


「ブフッっ発動場所の制限せいげんがある場合は! そういうこともありますっ」


なんだこれは、神の悪戯いたずらか? それとも髪の悪戯だろうか。あんなに嫌だった光が、自分の持ちネタになるとは思いもしなかった。


(まあいいさ、このスキルは冒険者になったら使うもの。俺には必要ない。さっさと忘れて山に登る準備をしなくては)


そう気を取り直したものの、情報収集に竜極峰りょくみねがどんな山か受付や近くにいた冒険者に聞いてみたところ、


「竜極峰ですか、なぜ山頂を目指されるのですか? あの山には神が宿っていると言われていて道も険しいと聞きます。一人で行かれる場所ではないと思います」


「竜極峰? あの周りにはめっちゃ強い魔物だらけで登山スポットとしてはおススメできないね」


「めっちゃ寒かったよあそこ。ふもとでも凍えるくらい。君のその頭じゃ一分も持たないだろうね」(ドッ)


 と寒い、強い、険しいという意見ばかりだった。あと半分くらいハゲあおりだった。やはり、一人で竜極峰に挑むのは無謀むぼうなように思える。となると、次に必要なのは大量の金になるだろう。雪山に向かう万全の準備と魔物とやらの撃退げきたいで冒険者を雇うなら一朝一夕いっちょういっせきで稼いだ金では遠く及ばないだろう。


 クソジジイかみの言った通りここで生きることになるのかと、俺はため息をついた。


「うっさいなぁスキーニーのくせにさぁ」


 その時、見慣れない言葉が聞こえてきた。


(スキーニーってなんだ?)


 声のする方へ顔を向けると若い冒険者達が大きなバックパックを背負う男の子を囲んで一方的に話しかけていた。


男の子は特徴的とくちょうてきなとんがり耳と美麗びれいな顔立ちをしており、将来は白馬の王子様になるだろうと確信する。しかし、その美貌びぼうで隠し切れないほど無残むざんに散っている頭皮は朝の明かりのように真っ白だった。つまりは俺と同類どうるいだ。


「お、お願いします! 一つだけでもいいので、この薬草を一つください!」


「って言われてもさ、君と同行して何かメリットあった? こんな頭も体も弱いのにさ」


「そうそう、アタシこの足手まといのせいでお風呂一日入れなかったし」


「ついてきても邪魔じゃまなだけだな」


 流石さすが我慢がまんできず、俺は男の子を庇うように割って入った。冷たい視線が自身を捉える。


「少し待ってください、流石に言いすぎじゃないですか?」


「何? アンタ」


「俺はついさっき冒険者になったシンです。あなたたちの言動、目に余るものがありますよ」


「キッモ、スキーニーのくせに、あっもしかして同族を守りたくなったの? 熱い友情すごーい」


 今の言葉で、スキーニーが何を指す言葉か分かった。


「今のスキーニーってもしかして俺か? 悪いな、いせかいてんせーだからこっちの言葉よく分からなくて」


「あっそうなの? じゃあ俺先輩ね。スキーニーってのは君みたいな頭ツルツルの奴って事さ! スキーニーは能力が低くて弱いから冒険者から嫌われてんのさ!」


 おそらく、この世界に先天性せんてんせいのハゲは居ないのだろう。ハゲには先天性と後天性こうてんせいがある。遺伝子的いでんしてきに髪が抜けやすいある意味幸せなハゲだ。だが後天性は大きな病気やストレスで起こる。過酷かこくなか生き抜いてきた強いハゲだ。


 だが後天性はその過酷さで体が弱る人が多い。その固定観念こていかんねんが存在しているからハゲ、つまりスキーニーと差別されている。ということなのだろうか。


(そうであってもそうでないとしても、これは許せない)


「なるほどね、じゃあ先輩さん。勝負をしようよ」

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